消費支出主要項目の変化
◆若年単身勤労者世帯の消費支出主要項目の変化~「食料」・「被服及び履物」の減少と「住居」の増加
30歳未満の単身勤労者世帯の消費支出主要項目の推移を見ると、男女とも「食料」や「被服及び履物」はおおむね減少傾向、「住居」や「光熱・水道」は増加傾向にある(図表1)。また、「交通・通信」や「教養娯楽」は1999年前後頃に増加し、近年はやや減少している。
これらの変化により、1989年では、男性の消費支出額は1位「食料」(4.9万円)、2位「交通・通信」(2.8万円)、3位「教養娯楽」(2.4万円)の順に多かったが、2014年では1位「住居」(3.9万円)、2位「食料」(3.7万円)、3位「教養娯楽」(2.5万円)と変わり、「住居」が上位にあがっている。
一方、女性では、1989年は1位「食料」(3.1万円)、2位「住居」(2.7万円)、3位「被服及び履物」(2.1万円)であったが、2014年は1位「住居」(4.2万円)、2位「交通・通信」(2.9万円)、3位「食料」(2.7万円)と変わり、男性と同様に「住居」の順位が上がっている。また、女性では、上位に「交通・通信」があがる一方、「被服及び履物」は姿を消している。
なお、「食料」や「被服及び履物」の消費者物価指数(CPI)は、1989年と比べて2014年では上昇しているため(図表2)、これらの支出額の減少は価格下落による影響ではない。仮にCPIが支出額と同程度に低下していれば、価格下落の影響により支出額が減ったことになる。
「食料」と「被服及び履物」について、CPIを考慮した実質増減率を見ると、いずれも大幅に低下している(図表3)。「食料」について1989年と2014年を比較すると、男性では4.8万円から3.7万円(実質△34.7%)、女性では3.1万円から2.7万円(△25.8%)へ減少しており、男女とも3割程度も支出が減っている。
また、「被服及び履物」は男性では1.1万円から約5千円(実質△58.6%)、女性では2.1万円から約9千円(△61.6%)へ減少しており、男女とも実に6割程度も支出が減っている。男女とも「被服及び履物」の実質増減率は、消費支出の主要項目の中で最も低下している。
このように、若年単身勤労者世帯では「食料」や「被服及び履物」の支出が大きく減っている。それぞれの内訳の変化を大まかに述べると、「食料」の減少は男性では主に外食費の減少、女性では各種食材の全体的な減少によるものである。
また、「被服及び履物」の減少は、男女とも「洋服」や「シャツ・セーター類」をはじめとした個別品目の全体的な減少によるものである。これらの詳細については後続レポートの個別分析にて、社会環境の変化等にも触れながら見ていくこととする。
一方、「住居」はCPIの上昇幅を上回って増加しており、物価上昇の影響以上に増えている。1989年から2014年にかけて、「住居」は男性では1.8万円から3.9万円(+79.3%)、女性では2.7万円から4.2万円(+29.6%)へ増えており、特に男性で著しく増加している。
この点については、「全国消費実態調査」では、2009年より調査対象から下宿や賄い付き世帯を除いている。よって、「住居」の内訳の大半を占める「家賃」の平均額が増えたことで住居費が増えた可能性がある。また、このことは「光熱・水道」の支出増にも影響している可能性がある。
また、バブル期以降で長らく続く景気低迷を背景に、福利厚生制度を縮小する企業も出てきたこと(社宅保有率の低下(*1)、住宅補助制度の縮小等)や若年層における非正規雇用者の増加などから、勤務先の福利厚生制度を利用できずに、自ら家賃を払わざるを得ない層が増えたことで、「家賃」の平均額が増えた可能性もある。
以上より、住居費の増加は、若者が住環境にこだわるようになり、お金をかけるようになったというよりも、調査対象の違いや景気低迷といった外的要因の影響が大きいだろう。
さて、1999年前後で増減している「交通・通信」と「教養娯楽」については、それぞれの内訳に近年のCPIの動向が大きく異なるものが含まれているため、項目全体としては傾向が捉えにくい。
例えば、「交通・通信」のCPIは、1989年から2009年まで低下傾向を示して2014年に上昇しているが、内訳に含まれる「交通」のCPIは一貫して上昇傾向にあり(1989年を100.0とすると2014年は121.2)、「通信」は低下傾向にある(同様に2014年は68.9)(*2)。
また、「教養娯楽」のCPIは一旦上昇した後に近年低下しているが、内訳である「教養娯楽用耐久財(テレビやパソコン、カメラなどの家電製品等)」のCPIは大幅に低下している(1989年を100.0とすると2014年は5.9)。一方、「教養娯楽サービス(旅行費や月謝類等)」のCPIは上昇している(同様に2014年は119.7)。よって、後続レポートにて個別品目の状況を見ていきたい。
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(*1)財団法人労務行政研究所「社宅・独身寮の最新動向(2008)」
(*2)総務省「消費者物価指数」
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