海外に住みたいと漠然と夢見る人は少なくないが、いざ真剣に「第二の人生」を検討すると、想像以上の取捨選択を迫られることになる。そこで、自由の国・米国の案外、自由でない制度について見てみよう。
米国人の米国離れ? 「アメリカ人」辞める人増加中
2015年に、米国の永住権もしくは、市民権を放棄した人の数が過去最高に達したそうだ。2016年2月8日付の日本版ウォールストリートジャーナルによると、その人数は4279人と、3年連続で過去最高を更新した。
その背景には、2010年に成立した外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)があるようだ。この法律により、国内のみならず、海外資産やその取引の詳細な報告を義務付けているため、特に在外米国人が市民権を手放しているようだ。
同記事によると、コネティカット州センターブルックの国際弁護士、アンドリュー・ミッチェル氏は「米国のパスポートを所有、もしくは永住権を有することには、その面倒な手続きと米国の税制に従って税金を負担するだけの価値がないと考える人が増えているようだ」と話している。
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永住権と市民権 何が同じで、何が違う?
かつて「米国に住む」という夢は、「グリーンカード」を持つことを意味する、と言っても過言ではなかった。米国に自由に出入国ができ、滞在も無制限、職業選択も自由なビザ。それが「グリーンカード」だった。
◎申請 夢をつかむ永住権、米国に忠誠を誓う市民権
グリーンカードを取得する方法の中で、特徴的なのは「抽選永住権」だ。純粋に年に一度の抽選によって与えられるもので、「宝くじ」よりは夢に近いとまで言われてきた。
一方、市民権の申請には、条件が9つもある。2つ紹介すると、1つは永住してからの期間が最低5年、米国市民の家族である場合は3年が経過していることだ。加えて、米国の歴史や政治の仕組みなど基本的な知識が必要で、申請時に簡単なテストがある。米国人になるための基礎を身につけなさいというわけである。
◎選挙 盛り上がる大統領選、投票できるのは市民権だけ
永住権と市民権の一番大きな違いは、公民権に関するものだ。永住権保持者は非選挙権や選挙権が与えられないが、市民権保持者であれば、基本的には地方・国政に参加することも、一票を投じることもできる。
◎職業 政府機関で働きたければ、米国に忠誠を誓うべし
職業選択の自由についても違いがある。永住権保持者はホワイトハウスやFBI、CIAなど、特定の政府機関の仕事に就くことができない。やはり国家の安全に関わる職業については、米国に忠誠を誓った市民権保持者に制限されているわけだ。
◎家族を呼ぶ 永住権は一緒にとれなければ、別居の可能性も
親族を米国に呼び寄せたい場合には、市民権のほうが圧倒的に有利になる。永住権保持者が日本で結婚して配偶者と一緒に米国での生活を始めようとしても、配偶者の永住権取得には大変な時間がかかる。配偶者が別途ビザを取得できない限り、その間は「日米で別居」ということになってしまうのだ。
こんなところに落とし穴 夢を見る前に考えよう
1.永住権・日本の滞在も制限される
米国外への長期赴任や親の看護などで日本に帰国するなど、1年のうち半分以上を米国外で過ごすと、永住する意志がないと見なされて永住権を剥奪される可能性がある。また、永住権は10年に1度更新しなければならない。犯罪歴さえなければ作業自体はインターネットで簡単にできるものなのだが、指紋押捺の費用80ドルを含めて290ドルがかかる。市民権の場合には、海外渡航期間の制限や更新などは一切ない。
2.市民権・「日本人」ではいられなくなる
日本は多重国籍を認めていない。多重国籍者は原則として22歳に達するまでに国籍を選択しなければならない。米国の市民権を得るということは、日本人ではなくなるということなのだ。
市民権を得た時点で、特に何もしなくても日本国籍は自動的に抹消される。だが、領事館に国籍喪失届けを出さない限り、戸籍上は日本人のままなので、国籍法違反になってしまう。市民権取得後に日本のパスポートを使い続ければ、旅券法違反で逮捕される恐れすらあるのだ。
3.市民権・所得税率が高い場合も?
米国の税法に従って、市民権保持者や永住権保持者、通年居住外国人には所得税がかかる。2015年の税率は課税所得の額によって10%~39.6%となっており、課税所得が400万円の夫婦の場合には33%と、日本の20%に比べるとかなりの高率になる。
4.永住権・海外で戦争などに巻き込まれても優先順位は下
永住権保持者はただ居住しているだけで、米国人ではないため、海外で戦争や事件に巻き込まれても、救助の優先順位は高くない。長期で日本に暮らせなくても、永住権保持者は「日本人」なのである。
単なる「憧れ」から海外生活を目指すには、時間的・経済的リスクがあまりにも大きすぎる。これらを覚悟の上で、海外移住、特に米国移住は考えたほうがいいだろう。(ZUU online編集部)
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