中国など新興国の経済に陰りが見え始め、世界経済に不透明感が増している中、安倍総理は2017年4月に予定されていた消費税率10%への引き上げを2019年10月まで再延期すると発表しました。
住宅は高額のため、税率引き上げに伴う購入時の負担増が大きく、資金計画にも影響を及ぼします。そのため不動産市場でも消費増税前の駆け込み需要が期待されています。しかし、増税が再延期となった今、駆け込み需要の時期は先送りとなり、供給戸数や販売価格にも変化が生まれる可能性があります。
そこで今回は、消費税が5%から8%に値上げされた時の状況を参考にしながら、消費税率が10%に値上げされる2019年10月までの不動産市場がどのような動きをするのかについて予測してみたいと思います。
消費税が適用されない不動産取引がある?
まず、不動産取引と消費税の関係について簡単に説明しましょう。意外と知られていないことなのですが、土地を購入する際、消費税はかかりません。もちろん、購入した土地に建物を建てると、建物代金に対して消費税はかかります。
また、中古マンションや中古一戸建などの中古住宅の場合、売主が個人の場合は、その売買価格に対して消費税はかかりません。ただし中古物件の多くは不動産業者の仲介(媒介)によって取引されており、そういった業者へ支払う仲介手数料には消費税が課されます。
一方、購入時に必ず消費税が発生するのが新築物件です。つまり、増税先送りや消費増税が大きな影響を及ぼすのは、新築マンション市場や新築戸建て市場ということになります。
前回の消費増税時、市場はどんな反応を見せたのか
次に、前回(2014年4月)の消費増税(5%→8%)前後の不動産市況を振り返ります。
前回は、消費税率引き上げによる住宅取得者の負担を緩和するための措置として、「消費税率引上げに伴う住宅に関する経過措置」が取られました。2013年9月30日までに請負契約締結するか、2014年3月31日までに引き渡しを完了できれば、注文住宅などの請負契約やマンションなどの売買契約に、旧税率(5%)を適用させることができました。
不動産経済研究所が発表した「首都圏マンション市場動向 2013年のまとめ」を分析した結果、消費増税8%が実施される約1年前の2013年3月あたりから、駆け込み需要と見られる現象(価格、発売・契約戸数、契約率の上昇)が確認できました。特に、先の経過措置の期限となっていた2013年9月は、販売戸数5,970戸、契約戸数4,988戸、契約率83.6%という驚異的な数字を記録しています。
一方、2014年2月からは10ヵ月連続で発売戸数が前年を下回り、特に2014年8月は契約率が6割を切るなど、リーマン・ショック直後以来の大幅な落ち込みが確認できました。さらに、国土交通省による新設住宅着工戸数(貸家・持家・給与住宅・分譲住宅)の推移からも、2014年3月から2015年2月まで減少傾向が認められ、消費増税前の駆け込み需要と、その反動の大きさが証明された形となりました。
消費税率の再延期で住宅市場はどうなる?
冒頭でもお伝えしたように、消費税率10%が適用になるのは2019年10月からです。恐らく今回も、国は税率引き上げによる住宅取得者の負担を緩和するための措置を実施するでしょう。もし先の経過措置と同じであった場合、旧税率適用の条件は、2019年3月31日までに請負契約締結、または2019年9月30日までに引き渡し完了となるでしょうから、住宅を購入する場合は、この日程を反映させたプランニングをお勧めします。
前回の消費増税時には、約1年前から駆け込み需要と見られる現象が確認できました。おそらく2018年の夏ぐらいから不動産価格の上昇が見られるのではないでしょうか。
ただし、現在は人手不足による人件費の高止まり、用地不足による建設費の上昇、震災復興や2020年の五輪開催によるインフラ整備などから、不動産価格を押し上げる要因は非常に多く、価格上昇が続いています。
また、今回の再延期が発表される前は、2017年4月に増税が実施される予定でしたから、その1年前の2016年春先には、消費増税の影響を受けやすいとされる新築マンションや新築戸建て市場で、駆け込み需要の現象が見られてもおかしくなかったはずです。しかし、実際は首都圏の新築マンションや建売住宅市場は、ともに2016年3月、4月と2ヵ月連続で契約率が下がっており、価格上昇の影響で消費者の購買意欲が低下していることがはっきり読み取れました。
消費税が10%に引き上げられるまで、まだ2年半もありますから、今後1年以上は模様眺めの状況で市場は推移していくと思われます。これに伴い、新築マンション市場や新築戸建て市場の価格高騰は、一つの区切りを見せる可能性が高く、契約率もしばらく低迷しそうです。
中古物件の市場が拡大か?!
価格高騰の新築マンションに代わり、中古マンション市場が拡大するかもしれません。上述の通り、売主が個人の中古住宅には消費税がかかりません。安価で購入した中古住宅にリフォーム&リノベーションを施し、自分好みの内装や設備に入れ替え、機能性と安全性を確保しながら居住満足度を高める購入者も増えているようです。欧米では市場流通の8割が中古住宅いわれていますが、日本は新築の人気が高く、割合は2割にも達していません。しかし、現在は中古マンションの成約価格が上昇の兆しを見せています。今後、中古物件がどのような価格推移を描くのかを見極める必要がありそうです。(提供: 不動産投資ジャーナル )
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