先日仮条件が決定したLINE。7月15日、ついに東京証券取引所に上場する。ニューヨーク市場への上場は7月14日(現地時間)だ。日米同時上場は日本企業初ということもありLINEのIPOは注目を集めているが、そもそも上場はどのような流れで承認されるのだろうか。また、その基準はどういったものなのか。ここではあまり知られていない上場審査の流れと基準について解説しておこう。
複数回の上場見送りを経験したLINE
LINEについては、東京証券取引所に上場を申請したことが報じられた2014年7月以降、何度か上場の噂が浮かんでは立ち消えになっていた。上場にここまで時間がかかったのは、親会社である韓国IT大手のNAVERが普通株の10倍程度の議決権を持つ「種類株式」の発行にこだわり、これに東証が反発したことが理由の1つだったと言われている。
上場承認に至るまでの流れ
さて、証券取引所による上場承認に至るには、大きく分けて「事前準備から上場申請の前に行われる証券会社による審査まで」と、「取引所による審査」の2つの段階を経る必要がある。
事前準備から上場申請の前に行われる証券会社による審査まで
事前準備は上場申請事業年度を迎えるよりも前からスタートし、場合によっては数年間におよぶこともある。証券会社の審査に備えて課題を洗い出すとともにそれらに解決するために行うもので、多くの場合公認会計士や証券会社の営業担当者などが会社の作業を手助けする。準備作業の中で、主幹事証券会社をどこにするのかなど、上場に向けた体制も徐々に整えていく。
ある程度見通しがついてきたところで、今度は主幹事証券会社の審査部門による審査が行われる。ここでは、現在の事業内容、将来の業績見通し、コンプライアンス体制などについて審査される。上場後も株主を裏切ることがないよう、審査はかなり突っ込んだものになる。詳細に及ぶ現場でのヒアリングはもとより、帳票類、各種規定なども細かくチェックされる。場合によっては改善を促されたり、変更を強要されたりすることもある。
上場申請事業年度になると、主幹事証券会社は上場申請の2週間前までに、会社名や申請日、上場希望日などを取引所にエントリーする。そして申請の1週間以上前には、主幹事証券会社の公開引受部門が、自社による審査の概要を取引所に説明するなどの事前相談を行う。
上場申請は通常、上場申請直前事業年度の定時株主総会が終了した後に行われる。申請の際に希望会社は、申請の理由や業務内容、業界環境等について審査担当者と質疑応答を行う。そしていよいよ取引所による審査が実施されることになる。
取引所による審査
取引所審査の内容は、証券会社による審査とほぼ同様の内容を短期間に凝縮したようなものとなる。実地調査や公認会計士のヒアリング、経営トップや監査役の面談などだが、期間が短いだけに指摘を受けてしまうと改善するための時間がない。やむなく「上場延期」という結果にならざるを得ないのだ。なお、東証の標準審査期間は、本則市場では3カ月間、マザーズやJASDACの場合には2カ月間と決められている。
上場審査に合格すると、取引所はその旨を発表し、上場時に公募や売出しを実施する会社はファイナンスの手続きに入る。多くの場合、上場日は上場承認日の約1カ月後になる。上場のタイムリミットは上場申請事業年度の定時株主総会までなので、事業年度が新しくなってからの「期越え上場」というケースもある。
日本の株式市場
日本の株式市場には、東京証券取引所の他に、1部・2部・セントレックスを持つ名古屋証券取引所、上場株式市場と新興企業向け市場の「アンビシャス」を持つ札幌証券取引所、上場株式市場・不動産投資信託(J-REIT)・新興企業向け市場のQ-Boardを持つ福岡証券取引所がある。これらの中で規模が格段に大きく、かつ重要なのは東京証券取引所であり、日本株式市場と言えば東京証券取引所のことだと考えてよい。
この東京証券取引所は、1部・2部・マザーズ・JASDAQ という株式市場に加えて、上場投信信託(ETF)と不動産投資信託(J-REIT)の、計6つの市場がある。ここでは前4者の株式市場について、簡単に上場基準を見ておくことにしたい。
東証1部
東証1部には、厳格な基準を満たした大企業だけが上場できる。2200人以上の株主、2万単位以上の流通株式数、時価総額が250億円以上であることなど、まさに一流の会社でなければクリアできない条件が課せられている。
東証2部
東証2部も1部と同様本則市場である。上場時の時価総額が20億円以上であること、株主数が最低800人以上であることなどが必要だ。
東証マザーズ
マザーズは、株主数は上場時に200人以上であること、上場時の時価総額が10億円以上であることが条件であり、本則市場に比べて形式要件が緩和されている。高い成長性が見込まれる企業の上場市場と位置付けられており、ベンチャー企業も多く上場しているのが特徴だ。
JASDAQ
JASDAQもマザーズと同様、ベンチャー企業や新興企業に向いた市場だ。ある程度完成した会社向けの「スタンダード」と、今後の成長性に期待して当面の利益額には制約を設けないなど、極めて緩やかな形式要件をとっている「グロース」とが用意されている。
米国の株式市場
ところで今回LINEが同時上場する米国の株式市場とは、どのような特徴を持っているのだろうか。米国の主な株式市場は、ニューヨーク証券取引所とNASDAQの2つだ。両社を合わせただけで、日本の市場の5倍以上の時価総額になる。
また米国市場では、ADR(米国預託証券)という形で、世界の主要銘柄が容易に取引できる。他国に上場している企業でも、ADRという形でなら、米国に上場している株式と同じようにドル建てで取引をすることができるのだ。ADRは、投資家が日本とは成長ステージが異なる新興国の企業などにも投資することを可能にしている。
上場に際してのディスクロージャー制度や会計基準が厳格であり、投資家にとって安心できる市場であることも魅力だ。FRB(米連邦準備制度理事会)による監督を始め、ディスクロージャーに厳格なSEC(証券取引委員会)、証券会社の自主規制機関であるFINRA、さらには充実した訴訟制度など、投資家保護のインフラが整備されていることも、米国市場の信頼性を高めている。
LINEの上場市場は東証1部か2部とされている。仮条件を元に計算すると時価総額は最大約6700億円にもなる大型IPO案件なので東証1部との見方が多いが、公開価格決定までどちらになるかはわからない。今後の動きにも注目したい。