メッセージアプリ
(写真=PIXTA)

LINEが7月15日東京証券取引所に上場する。今回LINEは日本企業初となる日米同時上場を行い、ニューヨーク証券取引所には現地時間で7月14日に上場する。日本国内での月間アクティブユーザー数は総人口の約46%を占める5800万人(2015年6月時点)以上となっており、国内投資家への知名度は抜群だ。だが世界で見るとLINEの競合サービスは多く存在する。そしてここ数年、これらメッセージアプリは世界的に買収合戦が盛んだ。本稿ではメッセージアプリの買収に関する世界的な動きについて解説していく。

LINEは世界では有名ではない?

LINEは、世界での月間アクティブユーザー数(MAU)が約2億1500万人(2015年12月時点)である。MAUで見ると、メッセージアプリにおいては世界第7位に甘んじているのが現状だ。日本をはじめタイや台湾、インドネシアなどアジアでのシェアはあるものの、欧米での浸透度がいまひとつなのだ。

苦戦の理由は、競合のメッセージアプリの存在だ。LINEより上位にいるのはFacebookメッセンジャーやWhatsApp、SkypeやViberなどである。ビジネス利用に特化していたり電話番号だけで利用が可能だったりとその使い勝手には差はあるが、彼らにはひとつの共通点がある。有名企業の傘下に入っているということだ。

世界ではメッセージアプリの買収が活発

世界NO.1のWhatsAppは?
ことしの2月に利用者数が10億人を超え、利用者数世界NO.1メッセージアプリの座に君臨しているのが「WhatsApp」。2009年にアメリカのWhatsApp社が提供を始めたリアルタイムにメッセージ交換ができるアプリだが、2014年に約218億ドルという金額でFacebookが買収した。買収後も名称は変えず、ほぼ独立したサービスとして運用されている。

LINEと同じく音声通話機能も搭載されており、通信事業者経由ではなくネット上で通話ができる。Facebookは特に10代の若者層の利用時間の減少に悩んでいたため、その解決策としてメッセージや画像、動画の送受信により、若者に人気があるSnapchatの買収を試みた。しかし、その試みが失敗に終わったため、若者が活発にメッセージをやり取りしているWhatsAppの買収に白羽の矢を立てたと言われている。

日本でも有名なSkypeは誰もが知るあの企業に買収?
利用者数世界5位のメッセージアプリはSkypeだ。Skype はルクセンブルクに籍を置いていたスカイプ・テクノロジーズ社が2006年に始めたビデオ通話が元だ。利用者は世界で約3億人(2014年)。低速な回線でも安定した通話ができることが強みだ。ビジネスでの利用も多く、最大250名のユーザーでのオンライン会議が可能なSkype for Businessを有償で展開している。2011年にMicrosoftに約85億ドルで買収され、同社の一部門「Skype Division of Microsoft」となった。買収にはAppleやGoogle、Yahoo!も乗り出していたとされている。

日本の楽天も買収合戦に参戦
2億3000万人(2015年)と世界第6位の利用者数を誇る無料通話・メッセージアプリのViberを運営するキプロスのViber Media社も、楽天に2014年に買収されている。通話の品質には定評があるものの、チャットは1対1でしかできず日本国内での普及は遅れていた。そんなViber社を総額9億ドル(約900億円)で子会社化することを突如発表したことから、当初は疑問の声も多くあった。

楽天の狙いは2億3000万人のユーザーの「囲い込み」。このユーザーたちと楽天のECサイトなどグループ全体で抱える約2億人のユーザーとの顧客基盤を統合、最終的には楽天グループのプラットフォーム上で消費行動をさせる狙いがあったのだと見られている。実際に、Viber で1人にメッセージを送信するごとに1ポイントの楽天スーパーポイントがもらえるキャンペーンなども展開されている。

LINEはなぜ買収されなかったのか

このように大企業がメッセージアプリを買収する背景には、自社で持っていないユーザーや販路を取り込もうという狙いがある。では、世界7位のLINEはなぜ買収されなかったかのだろうか。

ひとつには、親会社である韓国のIT大手企業、NAVERの存在が挙げられるだろう。実はLINEが最初に上場を申請したのは2014年。そこから上場まで2年もの期間を要したのは、NAVERが普通株の10倍程度の議決権を持つ「種類株式」を発行することにこだわったからだと言われている。これは株式公開に伴う買収の防衛策とされるもので、NAVERの「LINEを手放したくない」という姿勢がうかがえる。

有価証券届出書の「株主の状況」欄には、株式の87.27%を親会社のNAVERが握り、LINE取締役のシン・ジュンホ氏が5.12%で次点、社長の出澤剛氏では0.05%の持ち分しかないことが記載されている。このようなNAVER姿勢が、他社からの買収の引き手をはじき飛ばしていた可能性も否定できない。

LINEの今後 世界中のユーザーにとってのプラットフォームに

LINEの友だち同士なら手軽に送金や割り勘ができる「LINE Pay」、定額制音楽聴き放題サービスの「LINE MUSIC」、LINEにアルバイト情報が届き、応募もできる「LINEバイト」など、LINEは独自でプラットフォーム化を進めている。さらに今までアジアを中心にユーザー数を増やしていたが、今回の米国上場を機に欧米での事業展開を強化していく狙いもある。

このように自らを世界中のユーザーにとっての生活プラットフォームにしようと試みているLINE。このビジョンは達成できるのだろうか。メッセージアプリ業界の今後に注目だ。