英国のEU離脱で為替市場が大きく動いた。急激に円高が進行する際、外貨運用を始めるには良い機会と考える投資家も多いだろう。しかし外貨運用を行う時に税金の損益通算の仕組みについて知らないと損をしてしまうコトもある。為替コストも重要だ。簡単な内容からおさらいしておこう。
外貨定期預金は円預金と違い「元本保証ではない」
預金の特徴は「元本保証」があることだ。しかし外貨預金には元本保証が無いのに預金を名乗っている。例えば、米ドル(USD)建ての外貨預金は「USD通貨での元本の保証がある」というだけで日本円ベースでの元本が約束されている訳ではない。預金と名前が付いているからといって安心してはいけないのだ。為替リスクという大きなリスクを取っていることになる。
その証拠に外貨預金は預金保険の対象外となっており、ペイオフで保護はされない。外貨運用をこれから始める投資家には、まず預金でイメージされる印象を排除して欲しい。もう一度繰り返すが為替リスクを内包しているのだ。
外貨預金を金融機関が勧める理由は「為替手数料」
外貨預金を金融機関が勧める理由のひとつが為替手数料だ。「為替手数料>運用益」となっている場合すらある。
以下の条件から投資家のリターンを考察してみよう。
- 豪ドル外貨定期預金、1000万円を運用
- 3カ月金利2.50%(3カ月は92日)
- 為替1豪ドル仲値84.36(為替水準は3カ月後も同一)
- 為替手数料1豪ドルあたり0.95円
税金20.315%
※上記は仮想であり、データの正確性を保証するものではない
①1000万円を豪ドルへ両替
1000万円÷(84.36+0.95)=約11万7219.55豪ドル
両替に使うTTSは金融機関によって異なる。この事例では、仲値の為替84.36円+0.95円(為替手数料)=85.31となる。TTSとTTBのどちらを使ったら良いか迷った場合は「投資家が損する方向」と覚えておけばよい。円から豪ドルであれば、為替は絶対値が大きい方で、日本円÷為替=豪ドルとなる計算後の最終豪ドルの値が少なくなる方の値だ。
②豪ドルで3カ月運用の利息、税引き前
11万7219.55豪ドル×0.025÷365日×92日=約738.644豪ドル③豪ドルで3カ月運用の利息、税引後
738.644豪ドル×0.79685=約588.58豪ドル④3カ月後の豪ドルベースの所持金(元利金)
11万7219.55豪ドル+588.58豪ドル=11万7808.13豪ドル⑤3カ月後の仲値ベースの日本円換算額
11万7808.13豪ドル×84.36=約993万8293円おわかりだろうか。1000万円で運用したものが約994万円で「為替手数料>運用益」となっている。運用コストに注意することがいかに大事なのかおわかり頂けると思う。これは円ベースの評価額の話であり、実際に円転すると更に悲惨だ。
⑥豪ドルから実際に円転
11万7808.13豪ドル×(84.36-0.95)=約982万6376円
為替リスクのインパクト
この事例では為替が3カ月前と同じ水準だったらという前提であった。しかし、為替が大きく動いて円高に進み、74.22円の推移であったらどうなるのか。
①仲値ベースの日本円換算額
11万7808.13豪ドル ×74.22=約874万3719円②豪ドルから実際に円転
11万7808.13豪ドル ×(74.22-0.95) = 約863万1801円ここまでで、「為替手数料>運用益」となり得ることを例示した。為替コストが高い投資は避けるべきである。そして為替の変動が及ぼす影響が大きいこともご理解頂けたと思う。しかしリスクは損得両方向を示すものであり、今後の為替の円安方向を予想し、そのリスクを許容できる投資家は為替益による収益機会もある。
外貨預金の為替差損は
外貨預金の税金は利息部分について20.315%(2016年6月現在)の源泉徴収となる。為替差益については「雑所得」として総合課税となることから、富裕層の高税率負担者にとっては「雑所得」の為替差益計上は負担が大きいと考えられる。そして為替差損が発生した場合は、「他の雑所得」としか損益通算ができない。なお、FX利用の利益や、証券関連の利益とは損益通算ができない。
為替の損益を含めて株式の譲渡損益と計上できる可能性も
海外ETFや外国株を活用すると為替の含み損益の姿が異なってくる。
米国株式の譲渡損益の計算は、ある証券会社のHPの説明によると、
「売却時の円換算した受払金額-購入時の円換算した受払金額」
・売却時はドル建て金額 × 売却約定時のTTBレート
・購入時はドル建て金額 × 購入約定時のTTSレート
となっている。円建て換算を行うプロセス等が面倒に思えるかもしれないが、為替の損益を含めて株式の譲渡損益と計上できる可能性がある。そして譲渡益の税率は20.315%(2016年6月現在)だ。富裕層の所得税と比較した場合のメリットの大きさを考えるべきだろう。そして他の国内の証券などとの譲渡損益との損益通算も可能になる場合がある。
外貨預金を勧める銀行員でこの内容を知っている者は少数だと考える。仮に知っていたとしても、わざわざ投資家に教えることは期待できない。富裕層にとって自分のケースに当てはまる、有益な情報を提供してくれるパートナーがいることで、運用リターンが左右される可能性も期待できるかもしれない。
*本件は一般的な税務の考え方を示したものであり、具体的な税金の事柄につきましては税理士、会計士等税務専門家にご確認下さい
安東隆司(あんどう・りゅうじ)
RIA JAPAN おカネ学株式会社代表取締役。CFP®ファイナンシャル・プランナー、元プライベート・バンカー。日米欧の銀行・証券・信託銀行に26年勤務後、独立。お客様サイドに立った助言を実践するためには高い手数料は弊害と考え、証券関連の手数料を受け取らない内閣総理大臣登録の「投資助言業」を経営。