スルガ銀行

日本経済新聞(平成26年5月26日付)によれば、上場地方銀行85行・グループの2014年3月期決算の純利益合計は1兆324億円となり、前期に比べて約3割の増益となりました。しかし、純利益が伸びた主な要因は不良債権処理の費用が減ったためです。預金金利がすでに下がりきっており調達コストの大幅な削減は見込めない中で、本業である融資の貸出金利も下がっているため、収益力は強いとは言えません。2015年3月期決算については約7割の上場地方銀行が減益を見込んでおり、本格回復にはまだまだ道が険しいようです。

地域金融機関は、今、大きな岐路に立たされています。金融庁が地域金融機関の収益性を懸念し、地域金融機関同士の合併・統合を促しているからです。以前からオーバーバンキングの状態であるということは言われてきました。日本の人口が減少する中で待ったなしの状況になってきたというわけです。先日も、地方銀行である東京都民銀行(証券コード8339)と第二地方銀行である八千代銀行(証券コード8409)が平成26年10月1日付で統合し、東京TYフィナンシャルグループが設立されるということがニュースになりました。東京都を地盤とする2行が統合することにより、同様の動きが他にも波及していきそうです。生き残りをかけ、どの地域金融機関も必死ですが、このような苦境の中でも着実に収益を上げ続けている地域金融機関もあります。その1つが静岡県を地盤とするスルガ銀行(証券コード8358)です。

多くの銀行が法人開拓、法人向け融資に力を注ぐ中で、スルガ銀行は個人向け融資に力を入れています。個人ローン比率は2014年3月期において85.7%と突出しており、貸出残高も年々増加しています(2014年3月期24,705億円)。個人向け貸出に注力した結果、預貸金利ザヤも2014年3月期で2.06%と地銀平均0.44%を大きく上回っています。投資指標にも他行との違いは表れており、PBRが1倍を切る銀行が多い中でPBR1.64倍(平成26年5月29日現在)と高い数値となっています。これは期待値の表れと言っていいでしょう。ここまでスルガ銀行が収益力を強化できている理由の1つは他行の戦略とは全く逆を行ったことにあるのではないでしょうか。個人向けの小口の融資を増やしたことにより、地元企業の業績に左右されにくくなり、また、フリーローンを積極展開することで、金利が高めの貸出を積み上げ、収益力アップにつなげられたのです。

つまり、スルガ銀行は手間であったとしても、「1社に1億を1%で貸す」よりも「100人に100万円を10%で貸す」方を選んだというわけです。スルガ銀行は多くの銀行が力を入れていない、つまり開拓しつくされていない市場を取りに行きました。地方銀行が生き残るためには、奇抜な戦略を取るということよりも、経営資源をある分野もしくはある地域に集中させて、他行が追随できないほどのシェアを握っていくことが必要なのではないでしょうか。融資も資産運用も、個人も法人も、と総花的に行っていては知らず知らずのうちに収益が下がっていくだけのように思えます。

photo credit: 三越前駅 via Wikipedia cc