日銀,物価,アベノミクス
(写真=PIXTA)

9月20・21日の日銀金融政策決定会合は、「2%の物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで」、マネタリーベースを「年間約80兆円」増加させるとともに、日銀当座預金残高の金利を-0.1%とする「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の現状維持を予想する。

日銀は、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現する観点から、「量的・質的金融緩和」・「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」のもとでの経済・物価動向や政策効果について総括的な検証を行う。

黒田総裁が原油価格下落以外の原因も指摘

8月27日のジャクソンホールでの講演で、黒田日銀総裁は、インフレ期待を2%程度へ持ち上げるリアンカリングの途上で、原油価格の大きな下落が起き、外的なショックに対する頑健性がまだ低いため、インフレ期待が後退してしまったことを指摘した。

更に、9月5日の講演で、黒田総裁は早期に2%の物価上昇が実現しなかった原因について、原油価格の下落に加えて、2014年の消費税率引き上げ後の個人消費を中心とする需要の弱さ、そして2015年夏以降の新興国経済の減速や、そのもとでの国際金融市場の不安定な動きを挙げており、その分析が総括の中心となろう。

企業部門が貯蓄超過である中、その貯蓄超過を上回る財政拡大により、ネットの資金需要を生み出し、それを間接的にマネタイズする、日銀の金融緩和の効果も強くなり、総需要とマネーが拡大し、インフレ期待を持ち上げる必要があった。ネットの資金需要は、企業貯蓄率と財政収支の合計で、マネーを膨らませる源、且つアベノミクスのデフレ完全脱却への推進力である。

実際には、消費税率引き上げを含む緊縮財政などにより、ネットの資金重要を逆に消滅させてしまい、日銀の金融緩和の効果は失われ、ポリシーミックスが機能せず、総需要は停滞し、インフレ期待が後退してしまったのは明らかなように思われる。

グローバル要因も企業活動を萎縮させた

緊縮財政に加え、グローバルな景気・マーケットの不安定感も企業活動を萎縮させ、ネットの資金需要を消滅させる力となり、日銀の金融緩和の効果を更に減じてしまった。

一方、過去とは違い現在は、原油価格が持ち直してきていることに加え、政府は財政政策を引き締めから緩和に転じ、グローバルな景気・マーケット動向も、G20などで合意した各国の総合的な政策対応などにより徐々に安定し、ネットの資金需要は復活してくると考えられる。

原油価格下落、緊縮財政、グローバルな不安定感という、早期に2%の物価上昇が実現しなかった原因について、今後のこれらの方向感は逆になるとみられる。日銀の金融緩和の効果は、今後は増していき、2%の物価上昇の実現性も増していくと判断されるだろう。そう判断されれば、9月の金融政策決定会合での総括が、マイナス金利の深彫りなどの追加金融緩和に直接的につながる可能性は小さいと考える。

デフレ脱却のために、間接的なマネタイズサポートの可能性

7月29日の金融政策決定会合で、ETFの買い入れ拡大の「質」のみの追加金融緩和を行ってから、日本経済・マーケットのファンダメンタルズは改善し、ドル・円も100円のラインを割っていないことも理由となろう。

内閣支持率は上昇しており、日銀への政治的な緩和圧力は弱く、9月下旬に召集される臨時国会で、消費税率引上げ延期法案、経済対策の補正予算案、TPP関連法案の議論を順調に進めるため、マイナス金利政策を含めたアベノミクスの副作用を、野党から批判されるのを政府は好まないだろう。

ただ、2%の物価目標が日銀の金融政策のみで、2年という早期に実現できるものではないことが、様々な原因の分析で総括されることになろう。

デフレ完全脱却を目指し、財政政策、成長戦略と構造改革による、企業活動の活性化で生み出したネットの資金需要を、ポリシーミックスとしての日銀の金融緩和の継続で、間接的にマネタイズしてサポートするという、スタンスに転換すると考えられる。