年金,中国
(写真=PIXTA)

9月に入り中国各省政府は、今年の年金支給額を発表している。内容は金額以外ほとんど変わらず、表面上は中央の統制が取れている。

中国第二の人口大省・山東省政府は9月14日、「2016年退休人員基本養老金に関する通知」を公布、これで2016年1月1日にさかのぼり、今年の年金支給額が確定した。

アップ率は6.5%、2005年以来12年連続の支給額アップである。省全体で550万人の退職者に増額の恩恵が及ぶ。破たん危機にある年金制度を抱えている日本人からすれば、表面上はうらやましい限りだ。

国家規定と傾斜配分

養老金(年金)の支給水準の調整は、各省政府とも国家の推奨標準を参照して行われる。今年のそれは6.5%前後、と図らずも目標GDP目標成長率と同じである。山東省政府は、経済社会発展状況、養老保障水準、職工の賃金水準などを総合考慮し、推奨水準と同じ6.5%アップに決定した。安易だが一番波風の立たないやり方である。これに伴い企業や機関事業単位の収める保険料も1.8%ベースアップされた。これも納得できる水準だろう。

これを実行するにあたって、1人当たり毎月70元のアップとなるよう調整する。ただし2015年12月31日時点で、70~75歳まで、75~80歳、80歳以上の人には、それぞれ20元、40元、80元を付加支給する、より高齢者の方に厚くなるよう傾斜配分をするのだ。

年金双軌制に初めて触れる

省の人力資源・社会保障局責任者は、我々の目的は、膨大な数に上る退職人員を安心させること。各地で有効な政策を展開し、企業、機関から年金を徴収し、退職者の手中に無事届けることにある。それに我々は多年にわたる経験を積み、習熟している。「我が省の年金制度は、秩序を持って展開している、心配しなくてもいい」と強調したいようだ。

しかし、本当はさまざまな制度上の問題を抱えている。

1つだけ新聞で報じられたのは、今年初めて公務員年金「機関事業者単位養老保険」と、一般の年金とアップ率を同一にしたことだ。また2016年からは、政策の統一も図っていく。年金双軌制と言われ、公務員年金は一種のブラックボックスのような存在である。とりあえず形だけでも民間とシンクロさせ、批判をかわそうという狙いだろうか。

危機に囲まれる年金基金

最大の問題は、加入者数が伸びないことである。制度的に年金加入が義務付けられたのは2011年からにすぎない。

ところが中小企業では保険金支払いを中断するところが多い。刹那的経営者が多く、給与の30%近くにも及ぶ年金など、金のあるうちに労使で分配してしまえという傾向が顕著である。

将来的に年金支給を受けられない人がたくさん出てくる。国有企業ばかりで年金だけは安心、といった老年世代の観念から、社会全体が抜け出せないのかも知れない。地方政府も社会不安の種とならないよう支給水準のアップを続けているのなら、これも年金基金破たんの原因となりうる。中国の年金は、運用も問題だらけであり、内実は八方ふさがりだ。どうなるかわからない点はは日本と変らない。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)