何か新しいことを学ぼうとするとき、コンパクトにまとめられた新書はおススメだ。今回はFP中谷俊雄氏に「お金について学びたい人向け」というテーマで5冊選んでもらった。
パンフレットの「安心」は本当か!?
『自動車保険の落とし穴』(柳原三佳著、朝日新書、756円)
自動車保険の支払いミスや不払いに疑問をもったジャーナリストである著者が上程した一冊。実はいま私たちの自動車保険には当たり前についている「人身傷害補償保険」は、著者が1997年に「週刊朝日」に連載した告発ルポがその商品開発の端緒となっている。
本書では自動車保険の基礎知識はもちろん、いざ自動車事故が起こった時の保険会社の悪質な対応と泣き寝入りしなければならなかった契約者とのやりとり、そして実際に著者自身が保険会社とのやり取りを通じて浮き彫りになった「安心」の裏側を記録している。
10年前の本ではあるが、私がFPとして自動車保険や火災保険を提案する際、損害保険会社の対応はこの本から大きく変わってはいないと心得たうえで紹介をするようにしている。
「家計簿」つけてますか?
『武士の家計簿』(磯田道史著、新潮新書、734円)
加賀百万石のそろばん係であった武士猪山家の、いまでいう家計簿が発見された。その記録は1842(天保13)年から1879(明治12年)年までの幕末から明治維新後までの36年間(途中1年2カ月間の記録が抜けているため)にもわたる家計簿である。
武家特有の家計の内情や、意外と借金が多くその借入先も様々である。明治になり士族への家禄が減る中、猪山家では「お金の運用」が始まっている。このことは現代でも非常に参考になるなと思うと同時に、もし家計簿をつけていなければ、もし明治維新がなければ、猪山家は一体どうなっていたのだろうかと心配にもなる。
筆者も仕事柄多くの家計簿を目にしてきたのだが、家計簿からはその家庭の価値観や生活感を垣間見ることができるのは今も昔も変わらないようだ。1世紀半の時代をさかのぼりながら、昔の人も眺めた秋の月と過ごすのもおつなものだ。
明日から新聞の経済欄が面白くなる
『高校生からの経済データ入門』(吉本佳生著、ちくま新書、842円)
私が著者を知ったのは2009年にNHKで放送された「出社が楽しい経済学」である。『スタバではグランデを買え!』(ちくま文庫)を書いた人というと知っている人も多いのではないだろうか。
本書はそのタイトルから想像できるように消費者物価指数やGDPなどの経済データを解説しているため寝るには最適な本のようである。しかしこの著者の本は違う。データAとデータBを組み合わせて今まで気づかなかったことを明らかにしてくれたり、データが日常の買い物をする際に役立つことを教えてくれたりする。それを難しくないまさに「高校生」が理解できるように解説しているところがこの本の最大の特徴である。
途中に現れる「練習課題」に挑戦してみると想像力が働き眠れぬ秋の夜長になるだろう。
「給与明細書」をよく見てこなかった方々へ
『知らないと損する給与明細』(大村大次郎著、小学館新書、842円)
給与明細は毎月々目にするも、いつも見るのは振込金額欄という人は多いはず。それもそのはず引かれるものは引かれるから仕方がないと諦めているからではないだろうか。じつは給与明細書や源泉徴収票などの書類には節税や貯蓄のヒントが隠されているのだ。
本書で紹介されているノウハウは私たちFPであれば知っていることがほとんどであるが、多くの読者の方々にとってはそんな方法があったのか!と新たな発見になることが盛り込まれているだろう。特に確定拠出年金を含めた所得控除の活用方法についてはぜひとも読んでほしいところだ。
今後、所得税法や社会保険制度はどんどん改正されるが、まず現行の制度を理解しておけばどこがどう改正されて、それが自分にとって有利なのか不利なのかの判断ができるようになる。その入り口として本書をお勧めしたい。
投資のノウハウ本やハウツー本に疲れた方へ
『金融マーケット勝つ法則〜行動ファイナンスと相場格言で学ぶ投資の基本〜』(真壁昭夫著、朝日新書、778円)
一見、投資のハウツー本と思われるかもしれないが、その辺の“チャラい”投資ハウツー本とは一線を画す。注目してほしいのはサブタイトルの部分だ。著者は現在信州大学で教鞭をとる行動ファイナンス分野で国内屈指の研究者である。行動ファイナンスや行動経済学という分野は実に面白いもので、大学などでファイナンス論や経済学を学んで楽しかった思い出のない方には特にお勧めの分野である。
本書では、なぜ投資家は“損切り”ができないのかなど投資家心理を行動ファイナンス論で解説し、投資家の世界で有名な投資格言を行動ファイナンス理論で裏付け解説をしてくれる。この分野を深めたい方には同じ著者の『実践!行動ファイナンス入門(アスキー新書)』もお勧めである。
中谷俊雄
FPオフィスライズ
代表
個人相談、法人の福利厚生メニュー「FP相談室」、各種マネーセミナーを開催、FP技能士資格の取得講座は累積2000時間を超える。著書に『ズバリわかる!FP技能検定3級』(ナツメ社)がある。帯広コア専門学校・札幌学院大学非常勤講師。
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