「会計とファイナンス」と聞くと「自分は経理・財務部ではないから関係ない」「簿記が理解できず挫折した」という声をよく耳にする。しかしアベノミクスの失速がささやかれ、円高とデフレマインド復活で企業業績も振るわない中、自社の財務状況を読み解けるかどうかは、経営者・管理職以外の若手ビジネスパーソンにも自分の身を守るために欠かせないスキルとなりつつある。
しかし会計処理を誤ることによって、東証一部上場企業でさえも企業自体の存続が危ぶまれる時代であり、勤務する会社の危機を自ら事前に察知することが大切だ。そこで今回は、財務会計の専門知識を持たないビジネスパーソンが、気軽に会計とファイナンスを学べる新書を5冊紹介する(文中の価格は紙版、税込み)。
決算書を作るのに必要な知識と決算書を読む知識とは違う
『決算書はここだけ読め!』 (前川修満著、講談社、821円)
上から目線で命令口調のタイトルとは裏腹に、企業の「成績表」である決算書の読み方をこの上なくわかりやすく記した財務会計の入門書。
著者によると、決算書を作るのに必要な知識と決算書を読む知識とは違うということを説いている。冷静になって考えてみると、これは至極あたりまえのことだ。「料理を食べる人には、料理を作るための知識はいりません」という著者のたとえも非常にわかりやすい。
まえがき、序章、あとがきを合わせて全部で10章構成になっている。はじめに決算書を理解するの必要なパーツ、つまり「資産」「資本」「負債」「収益」「費用」について学ぶ。難解な説明を見当たらないので、読書に慣れている人なら一日もあれば読みこなすことができるだろう。帯にある「世界一わかりやすい会計学」というコピーに恥じない、格好の会計入門書としておすすめしたい。
簿記の知識がなくても「目の付け所」が分かる
『決算書がスラスラわかる 財務3表一体理解法』(國貞克則著、朝日新聞出版、778円)
簿記などの知識がなくても、会社の決算書を見てその会社の状況を把握するための「目の付け所」について書かれた本。
この著者は普段、決算書の読み方について企業研修を行っているだけあって、高度な専門知識なしに企業の財務状況を読み解くことができるのかをよく理解している。まずは「会計とは何か」に始まり、最終的には「貸借対照表(B/S)」、「損益計算書(P/L)」および「キャッシュフロー計算書(C/F)」がどのような関係にあるのかまで解説している。
タイトルどおり「ざっくり」理解するのにうってつけ
ざっくり分かるファイナンス 経営センスを磨くための財務 (石野雄一著、光文社、778円)
会計と財務諸表がある程度理解できたところで「ファイナンスとは何か」について会計との違いを明確にしながら学べる本。
「会計」と「ファイナンス」の違いを理解していない人は意外と多い。そこで著者は「会計は『過去』『利益』を扱い、ファイナンスは『未来』『キャッシュ』を扱う」とわかりやすく定義してくれている。またCAPMやWACCといったファイナンスの理解に必要な用語についても、専門用語の羅列ではなく分かりやすい言葉で説明しており、好感がもてる内容だ。
「ざっくり分かる」といったくだけた表現通り、ファイナンスに関する知識を大まかに理解するのに最適であり、ビジネスバッグに入れて気軽に持ち歩くことができる格好のファイナンス入門書だ。
企業同士の比較を見ながら財務諸表を理解する
『「儲かる会社」の財務諸表 48の実例で身につく経営力・会計力 』(山根節著、光文社、929円)
実在する企業の財務諸表をリアルに読み解くことによって、会計力と経営力が身につける練習ができる本。
著者によると、会計力をつけるためにはまず本物の財務諸表をなるべく多く読んでみることだという。その他にも、枝葉末節の数字にとらわれずに全体を俯瞰してみることや、専門用語はとりあえず無視して貸借対照表と損益計算書に絞って見ていくことが重要だと説く。
TOTOとLIXIL、シャープと東芝など同業の企業同士の比較もあり、財務諸表をより身近に感じながら読み解くことができるだろう。
ストーリー仕立ててファイナンスの知識がなくても読みやすい
『戦略的コーポレートファイナンス』(中野誠著、日本経済新聞社、1020円)
会計とファイナンスについてざっくりと知識を習得したら、ちょっと突っ込んでコーポレートファイナンスについてこの本でじっくり勉強してみよう。
この本の構成はストーリー仕立てになっており、住宅メーカーの社長と投資銀行部門の新入社員からの質問に著者が答える形で進行していく。アップルやマンチェスターユナイテッドなどの具体的な例と豊富な図表を示して説明してくれているのも一般の社員レベルの人間にとって親しみやすい。
コーポレートファイナンスの専門知識がないのに、ここまですんなりと読み進められる本はそうそう見当たらないのではないだろうか。より深くファイナンスが知りたい方に絶好の教材となるだろう。(五十路満、ライター)