読書の秋である。
前回 「なぜ、人はくだらない『投資本』を買ってしまうのか?」 について書かせていただいた。実際、書店に並んでいる投資本の多くは、くだらない「雨乞いの記録」に過ぎない。

では、投資初心者はどんな本を読めば良いのか?

著名な投資家の体験談やノウハウ本など何の役にも立たない。
投資初心者なら他に読むべき本がある。それは「投資本」ではなく、「投資の役に立つ本」だ。これから何十年と相場に向き合うことになる初心者だからこそ、最初が肝心なのだ。小手先のノウハウではなく、相場の面白さ、怖さ、そして現在我々が直面する社会の本質をしっかりと見据えることができる本を熟読したい。

私は株式投資を始めて20年以上になる。これまで数多くの本を読んできたが、その中でも初心者のあなたにお薦めしたい「投資の役に立つ本」を紹介しよう。

株価は「人間の心理」で動く。投資の面白さ、恐ろしさを学べ

『波の上の魔術師』(石田衣良、文春文庫)

これから投資を始めようという人に、まず読んで頂きたいのが『波の上の魔術師』だ。

この本には相場の読み方が書かれているわけでもないし、ノウハウが書かれているわけでもない。この本を読んだからと言って、あなたの投資が変わるわけではない。

老紳士とパチプロ大学生が株価操作によって銀行を懲らしめるという少々非現実的なストーリーは実際の投資には何の役にも立たないだろう。

しかし、人間の心理が株価をどのように動かすのか、小さな出来事の積み重ねが大きなうねりとなって株価を動かす描写にワクワクする。株式投資の面白さ、そして恐ろしさを初心者が楽しみながら理解するにはうってつけの一冊だ。

難解な投資の世界を「抵抗なく学べる」一冊

『堂島物語』(富樫倫太郎、毎日新聞社)

いまや多くの金融商品が先物やオプションといったデリバティブの「仕組み」を利用している。こうしたデリバティブは現代の金融商品には欠かすことができないのだが、いつ、どこで、どのように生まれたのだろうか。

1620年、舞台は江戸時代である。大阪の堂島で米市場が開設され、その100年後には世界で初めて米の先物市場が整備されたとされている。江戸時代の堂島では世界最先端の金融取引が行われ、それが現在の金融工学の礎となっているのだ。

この物語は、主人公が米問屋の下積みから、商才を発揮して這い上がっていくサクセスストーリーだが、当時の米取引の様子が興味深い。現代の商品先物相場が既に成立しており、先物を売り買いしてヘッジを行ったり、レバレッジを効かせて大相場を張るといった投資家(米商人)がいたのだ。

あなたは、投資経験を重ねる中で「信用取引」「先物取引」「デリバティブ」といった専門用語に遭遇することになるだろう。この本を読めば、初心者でも難解な投資の世界を抵抗なく学ぶことができる。