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(写真=PIXTA)

古人の言葉はあらゆる場面において役に立つ。老子や孫子が生み出した兵法が、現代ビジネスにも通用するとして注目されて久しくなる。そんな中、最近では「韓非子(かんぴし)」がビジネスパーソンの間で話題だ。

韓非子が今注目されている理由を解説する。老子や孫子との違いは何か、またどのようにビジネスシーンで役立つのだろうか。

韓非子ブームの背景

韓非は中国戦国時代に生まれた政治家・思想家である。なお韓非の残した書物に『韓非子』がある。著者と書物の名前が同じだからややこしい。

吃音症を患っていた韓非子は、幼少のころより文才に長けていたという。だが韓非子の最後は実に悲惨である。なぜなら秦国の李斯(りし)により自殺に追い込まれるからだ。

かの有名な司馬遷は『史記』において、「秦王を上手に説くことができなかったことを悲しんでいる」と記している。韓非子はこれほどまでに優れた人物だった。

今、ビジネスパーソンの間で韓非子ブームが巻き起こっている。その先駆けとなったのが『組織サバイバルの教科書 韓非子』(守屋淳著、日本経済新聞出版)だ。

本書は『韓非子』と『論語』を比較しながら、リーダーシップ論について記した一冊だ。隠しきれない真理について言及しているため、目から鱗の内容ばかりが掲載されている。

日本のビジネス社会では、表面的には論語的な「仁」や「徳」を重んじることを求められている。しかし実際はこんな綺麗事だけでは、ビジネスは立ち行かない。

そこで韓非子的な発想が必要になる。つまり「法」を重んじることだ。これを上手に取り入れることを本書では訴えており、これが組織というサバイバル上で生き残る方法だと言うのだ。

韓非子の魅力

韓非子ブームが起きているのは『組織サバイバルの教科書 韓非子』がキッカケなのは違いない。だが本当は、それ以前から『韓非子』は経営者・マネジメント層の間では親しまれてきた。これには韓非子に経営者を魅了する魅力があるからだ。

『韓非子』の魅力は、その鋭い洞察力・分析力にある。組織のトップとして立つ者が、如何にしてルール作りをすべきか、如何にして制度作りをすべきかについて『韓非子』では記されている。

多くの人は何となく性善説を信じたがる。だからこそ、ビジネス社会では論語が主流になっているのだろう。

だが、経営者たちは違う。本当に必要なのは『論語』のような「徳」ではなく、『韓非子』のような「法」なのだ。だからこそ、その組織のトップに立つ者が本当に必要な知識を記した『韓非子』が、経営者たちを魅了するのである。

韓非子以前に老子や孫子が流行した理由

日本のビジネスパーソンの間では少し前までは老子や孫子等の考え方が流行していた。

これらが流行したのにはいくつか理由が考えられるだろう。中でも特に強いのが、日本人にとって老子や孫子の考え方が受け入れられやすかったからだと言える。

老子の考え方は『論語』と近く「仁」や「徳」を重んじるものだ。また孫子は「弱者」を大切にする考え方である。だからこそ大衆には受け入れられた。

一方、韓非子は何度も説明している通り、「法」を重んじる考え方である。そして組織を生き残らせる、また組織で生き残る考え方を伝えている。これはあまり日本人には馴染みがないのだ。

けれども、時代の移り変わりとともにビジネスパーソンの考え方も着々と変化してきた。一社員でもトップ層に立ち向かい、またトップ層は社員を抑えようとしている。こうした時代の変化も受けて、韓非子に注目が集まってきたのである。

ビジネスシーンでどのように役立つか

韓非の教えが実際にどのように役立つのだろうか。例えば上司と部下との関係である。彼らは現時点の立場こそ上下はあるものの、権力を狙う者と狙われる者との関係であることを『韓非子』では説明する。すなわち、一時たりとも油断をしないように促しているのだ。

それでは油断をするとはどういうことか。例えば責任のなすりつけ合いに巻き込まれることなどが挙げられる。こうした場合にどのように切りぬけるべきかを『韓非子』から学ぶことができるのだ。

その他、ビジネスシーンでは様々なステークホルダと関係を維持しなければならない。こうした場合にも最善の行動を知ることができる。

したがって、他人を信用できないビジネス社会において、自分が生き残るための方法を学べる。ビジネスシーンの一瞬、一瞬で役立つのである。

今、韓非子が注目されているのには理由がある。一言で述べるなら「社会が求めている」からということだろう。ビジネスパーソンであれば手に取って読んでみてはいかがだろうか。(吉田昌弘、ライター)