財務省と金融庁は、ビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨の取得時に発生する消費税を、2017年春をメドに非課税にする調整に入った。これにより、仮想通貨は正式に、日本の円や外国通貨と同様に「支払手段」として位置づけられることになる。これにより、今後、仮想通貨をめぐる課税関係はどのように変わっていくのだろうか。

仮想通貨の取扱いは法律ごとに違う

仮想通貨とはインターネットを通じて不特定多数の間での物品の売買やサービスの提供の際に利用できるバーチャル貨幣だ。仮想通貨の元はデータであり、そのデータはP2Pという通信方式を使ってやりとりされる。送金コストなどが銀行間送金に比べて圧倒的に安く、すでに海外諸国では、少額決済や海外送金、店舗での決済などに利用されている。

この仮想通貨の発案そのものは2008年、サトシ・ナカモトという人物によって行われているが、日本で知られるようになったのは2014年、仮想通貨ビットコインの取引所「マウントゴックス」の破たん事件がきっかけだった。この事件では、顧客が預けた資金を着服したなど業務上横領の疑いにより代表者が逮捕されるという顛末になった。

これを考慮し、取引者保護のために、今年春、資金決済法が改正され、仮想通貨もプリペイドカードなどと同様の支払手段として位置づけられた。しかし、仮想通貨についての法整備が行われたのは、この資金決済法のみであり、消費税法上は相変わらず「資産」として位置付けられ、8%の消費税がかかっていた。

なぜ「支払手段」なのに消費税が課税されていたのか

「支払手段なのに、なぜ、プリペイドカードや外国通貨のように売買の際の消費税が非課税とならないのか」。これは、消費税の構造上にその理由がある。

消費税は、国内において事業として行われる資産の譲渡や貸付、サービスの提供について課されるのが原則だ。通常、年間売上高が1000万円を超えると、翌々年から消費税を納めなくてはならない。なお「事業として」というのは、独立・反復・継続という商取引の特徴を端的に表したものだ。マイホームや車の売却など、個人がそれぞれの事情により一時的に売却したものについて、消費税は課税対象とはならない。

ただし、さまざまな事情により、一部非課税とされたり、輸出免税として実質的に消費税が課税されないことがある。

ここで注目したいのは「非課税取引」だ。消費税の非課税取引とは、無数にある商取引の内、障害者の車いす販売や教科書販売など、その売買の目的や性質を鑑みると消費税を課する際に社会的配慮が必要だったり、消費税課税がなじまないものがあったりする。これについては、要件を限定列挙し、事業者はその売上高に消費税を課税したり、納付したりしないこととされている。
具体的には、ざっくりと次の通りだ。

1. 土地の譲渡及び貸付け
2. 有価証券等の譲渡(株式や投資信託など。ゴルフ会員権は除く)
3. 支払手段の譲渡
銀行券、政府紙幣、小額紙幣、硬貨、小切手、約束手形などの譲渡。(ただし、これらを収集品として譲渡する場合は非課税取引には当たりません)
4. 預貯金の利子及び保険料を対価とする役務の提供等
預貯金や貸付金の利子、信用保証料、合同運用信託や公社債投資信託の信託報酬、保険料、保険料に類する共済掛金など
5. 日本郵便株式会社などが行う郵便切手類の譲渡、印紙の売渡し場所における印紙の譲渡及び地方公共団体などが行う証紙の譲渡
6. 商品券、プリペイドカードなどの物品切手等の譲渡
7. 国等が行う一定の事務に係る役務の提供(登記・登録事務など)
8. 外国為替業務に係る役務の提供
9. 社会保険医療の給付等(労災保険や自賠責の支給など)介護保険サービスの提供
10. 社会福祉事業等によるサービスの提供、助産サービス、仮想や埋葬などに関するサービスの提供
11. 一定の身体障害者用物品の譲渡や貸付け、学校教育関連の授業料等、教科書販売など
12. 個人への住宅の貸付け(マンスリーマンション、ウィークリーマンションを除く)

ここで特に注目したいのが、「3. 支払手段の譲渡」だ。これは、別途「消費税法基本通達」に細かく規定されているのだが、このいずれの項目にも仮想通貨は該当しない。したがって、現時点では「消費税の課税対象」なのである。

参考: 消費税法基本通達

なお、資金決済法においては、仮想通貨と同位置に定義づけられているプリペイドカードは、「6. 商品券、プリペイドカードなどの物品切手等」としてカテゴライズされる。法律が異なれば定義も異なる。一般人には分かりにくいところだが、法律はこのように考えるのだ。

仮想通貨売買において消費税は非課税、でも売買益は課税

では、今後、仮想通貨売買での課税関係はどうなるのだろうか。仮想通貨が上記非課税項目に取り入れられれば、当然のことながら年間売上高が1000万円を超えても消費税は課税対象とならない。ゆえに、デイトレーダーのように仮想通貨を売買していても、消費税を納める必要はないことになる。

だからといって、油断してはならない。仮想通貨は時価が存在する。そのため、個人ならば所得税、法人ならば法人税を納める義務は発生するのだ。ゆえに、毎年の申告・納税義務は厳守しなくてはならない。

また、仮想通貨売買以外にも何らかの事業を行っているならば、消費税は注意が必要だ。個人事業主や法人の事業として他の事業を営んでおり、それが消費税の課税対象であるならば、今度は消費税において課税と非課税の調整作業が必要となるからである。

専門家に頼まず、自らすべての申告作業を行っている人もいると思うが、この消費税の課税・非課税の調整作業は通常煩雑で困難だ。税制改正が行われた場合には、同時に申告作業を専門家に依頼することを検討した方がよいだろう。

鈴木 まゆ子
税理士、心理セラピスト。2000年、中央大学法学部法律学科卒業。12年に税理士登録。外国人の在日起業の支援が中心。現在、会計や税金、数字に関する話題についてのWeb上の記事執筆を中心に活動している。心理セラピーは、リトリーブサイコセラピーにて大鶴和江氏に師事。税金や金銭に絡む心理を研究している。共著「海外資産の税金のキホン」(税務経理協会、信成国際税理士法人・著)。ブログ「 経済DV・母娘問題からの解放_セラピスト税理士のおカネのカラクリ