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(写真=PIXTA)

銀行が、高い信用力のある企業への貸出を優先し、事業の将来性があっても信用力の低い企業には貸さない態度を、金融庁は「日本型金融排除」として排除する考えを示した。

同庁が10月末に公表した2016年度の行政方針で、そうした実態を把握する姿勢を示している。従来型のビジネスモデルでは立ち行かなくなりつつある銀行に対し、「日本型金融排除」という言葉を用いて変革を促したと見られる。

銀行と企業が共通価値を創造するための取り組みとは

行政方針は以下の6つの項目に分れている。

(1)金融行政運営の基本方針
(2)金融当局・金融行政運営の変革
(3)国民の安定的な資産形成を実現する資金の流れへの転換
(4)「共通価値の創造」を目指した金融機関のビジネスモデルの転換
(5)ITの進展による金融業・市場の変革への戦略的な対応
(6)国際的な課題への対応

この(4)の中で、具体的に金融機関への方針が述べられている。現状認識として、長短金利の低下・技術の進化など金融環境が大きく変わる中で、「横並びで単純な量的拡大競争に集中する銀行のビジネスモデルは限界に近い」と述べている。そして現状のビジネスモデルが今後も持続可能がどうかの検証の必要性を述べている。

背景には、マイナス金利も後押しし、金利低下により利鞘縮小を貸出増でカバーできていない状況や、生産年齢人口減少により、2025年には6割を超える地域銀行において顧客向けサービス業務(貸出・手数料ビジネス)の利益率がマイナスになる可能性があるという試算からである。

金融庁が望む姿として、銀行が顧客本位なサービスを提供することと、銀行自身の安定した経営を実現するという好循環(「共通価値の創造」と呼んでいる)を考えている。

これを実現するために、次の4つの具体的取り組みを掲げている。

(A)金融仲介機能発揮に向けた取組みの実態把握
(B)金融機関との深度ある対話
(C)開示の促進等を通じた良質な金融サービスの提供に向けた競争の実現
(D)金融システムの健全性維持

この中の(A)にて、銀行の融資に関し、銀行側と顧客側の認識の相違が指摘された。銀行側は融資可能な貸出先が少なく、金利競争が激しいと認識し、顧客側は銀行は担保・保証が無いと貸してくれないとの認識があるとのこと。

そして、十分な担保・保証や高い信用力がない企業に対する銀行の取り組みが不十分であるため、企業価値の向上が実現できていない状況の事を「日本型金融排除」と指摘し、銀行にそのような事態がどれ程存在しているか実態把握を行うとしている。

なぜこのように、銀行側と顧客側の認識の相違が生まれてたのだろうか。

銀行側は少ない貸出利ざやで収益基盤を確保するため、貸出先を増やす必要があるが、過去の不良債権の経験からより返済可能性が高い(担保・保証が十分)先を選ぶ傾向が未だ根強い。

当然ながら、近隣他行も同様の判断をし、特定の顧客に融資提案が集中する。一方、その他の多くの中小企業は十分な担保が無い場合が多く、いかに技術や事業の将来性を主張してもすぐに融資に繋がるとは限らない場合が多いとの現状がある。

金融庁が実現したい「事業性融資」

十分な担保や保証が見込める先に銀行が低金利で殺到する傾向は、金融庁自身が従来進めてきた統一的で厳格な金融検査・監督手法の副作用でもあったことは金融庁も認識している。

金融庁は、銀行自身が、その地域の実情あった主体的で創意工夫された経営を促し、それに合った検査方法も検討している。

銀行が融資判断を行う場合、事業の将来性や持続可能性を考慮する「事業性融資」を浸透させたいと考えている。

その事業性融資の参考になる一例として、兵庫県のある建築工事業者A社を紹介する。

A社は、もともと技術力も高く取引先やメインバンクとの関係性は良好であったが、一時多額の未払金が発生した際、メインバンクはその未払金分の短期立替資金を長期に振替えた。その後、従来は対応されていた短期運転資金が対応して貰えなくなり、資金繰りに影響し始めた。そんな中、取引銀行であった地元信用金庫は、当社からの相談を受け、資金支援を実施。そして、A社は当信金から「ひょうご中小企業技術・経営力評価制度」の紹介を受け、「技術・経営力評価報告書」の発行を受けた。

この第三者の評価は技術と事業の課題を明確にし、課題解決に向けた方向性が作れた。そして、当信金は新規融資に合わせて、他行借入をも集約化し新しいメインバンクとなれた。

すべての中小企業が、上の例のような要素を持っている訳ではないだろう。ただ、事業性融資を検討する過程で、会社の課題を見える化し、共有することで、信頼の構築やお互いの持続可能な発展を生み出すことを金融庁は目指しているだろう。(菅井啓勝、ライター)

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