中国の米国大統領選挙への関心は、あまり高くない。もちろんクリントン候補のメール問題や、トランプ候補の暴言などは逐一報道されていた。
ただしそれは国営新華社通信による配信の範囲内にとどまり、ほとんどすべて「外国メディアによると」という書き出しである。
一方で新華社は、愚にもつかない話題も配信している。例えば候補者に対し、長年にわたって認知を求めている青年がいるなどである。
米国へのスタンスは他の国とは違って、新華社自ら週刊誌的記事も配信している。国民に対し、米国に対する親近感を増幅させる方針のようにも見える。米国への関心、扱いには中国なりに特別なものがある。トランプ候補当確以降の反応を、経済紙を中心に見ていこう。
速報は型どおり 反応はいまひとつ
最も早い反応は外交部の定例記者会見だった。トランプ候補当選のコメントを求められた報道官は、米国の新政府と共同努力し 両国関係持続穏定発展、両国と世界人民の幸福を希望するなどと型どおりの返答をした。
続いて共和党新華社ワシントン支局が速報を配信した。これも事実を淡々と伝えるのみ、極めて短いものだった。
翌日10日早朝、すでにネットニュース(騰訊新聞)のメインは、「習主席、神舟11号の乗組員と親しく交信、」や「天津爆発事故に猶予付き死刑判決、」「6歳児童井戸に転落80時間にわたる救出活動」などに変っていた。米大統領選関連は、“国際”をクリックすると出ている。こちらの方では、勝利宣言、敗北宣言、州別得票率、各国の反応など、あまり日本と変わらない豊富な情報量がある。
ただし読者の点評(コメント)数はそれほどでもない。トランプ氏の家族を紹介したニュースの2000コメントが最高で、6歳児童救出の3000を下回っていた。やはり関心の高さは、日本に遠く及ばない。
経済紙の速報、トランプ当選の経済的影響とは
経済紙の「経済観察報」は、英国のEU離脱に続き、資本市場に再びブラック・スワン事件が再度来襲したと速報した。しばらくの間、株式市場などの資本市場では混乱が続くだろうとして、当日の日本などアジア市場の様子を伝え、その上で次のような見立てを述べている。
●投資家の投資姿勢は変化
トランプ次期大統領は、米国内で2500万人の雇用を創出する、またメキシコとの国境に壁を構築し、不法入国者をブロックする、と公約していることを、投資家は忘れていない。世界経済の不確定要素は増し、株式などの変動資産は、金や日本円、スイスフランなどリスクヘッジ資産へシフトする可能性がある。
●貿易戦争勃発の可能性
トランプ財政政策の基本は、減税と歳出削減である。しかしインフラ整備計画もあり、政府の財政赤字は徐々に増加する。これらには議会による制約がある。しかし閉鎖的貿易政策ならより自由に執行できる。中国やメキシコに対し関税を上乗せするようなことになれば、それは貿易戦争のきっかけとなりうる。
●低金利環境の変化が、市場に波動をもたらす
貿易戦争は市場全体に悪影響をもたらす。債券の金利は上がり、株式市場発展の推力だった低金利環境は終わるだろう。株式市場は変動の圧力にさらされる。トランプ政策の企業減税は一時的に企業負債を減らすが、金融市場全体のエネルギーとはなりにくい。
●米ドルの展望不透明
米ドル相場の趨勢を予測することもより困難となった。経済的要因からするとドル高に向かうはずである。しかし多くの投資家は、米国とその他国家との外交関係の悪化を心配し、態度保留、ポジション中立を保つだろう。
経済紙の論説、トランプ当選の政治的影響とは
大統領選前日、ヒラリー有利というような予測記事はなかった。しかし彼女が勝てば夫のビル・クリントン氏は史上初の男性配偶者となる。その呼称は、“元大統領”がいいのか、第一夫人ならぬ“第一先生(先生は男性の尊称)”がいいのか。このようなエンタメ系記事を掲載している。したがって配信した新華社も世界の主要マスコミ同様、クリントン候補の当選を予測していた、と思われる。しかし、西欧のようにはずれくじを引いて、あわてているようには見えない。さらに経済紙から“トランプ勝利の中米関係に与える影響”という政治論説を見てみよう。
1 中米関係の対立点の位相変化
トランプ氏は、これまでの中米それぞれの戦略の相違をしっかり認識しているか、反グローバリズム、自国中心主義をどこまで主張するのか、また気候変化など、世界と合意した点はどうなるか。同じ目線で交渉ができるか心配は残る。
2 中米関係の重点は改変可能か
過去に米国と東南アジア間の軍事同盟には変化があった。今でもフィリピン、マレーシア、べトナムなどにおいて変化は続いている。中米は、東南アジアにおいて“挑戦”以外の新しい枠組みを作ることができるか。
3 中米関係の新しい関係に取り組む
米共和党政権の伝統的戦略と中国利益との調整は、新しい形勢下、十分可能であり排除することはない。米国が関与を嫌うなら、中国は新しい国際規則秩序の制定に積極的に参与する。
共和党政権の伝統で、米国が国際的枠組みに背を向けるならば、中国はそれを埋める、と主張している。その他、1970年代に始まった新自由主義の終焉、アメリカの後退、とはっきり論ずる識者もいる。
とにかく何事も個別交渉、政治はビジネスと考える中国人は、政治経験のないビジネスマン、トランプ氏の方がくみしやすい、とほくそ笑んでいるに違いない。中国は手ぐすね引いて新大統領の登場を待っている。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)
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