君の名は。
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映画「君の名は。」(新海誠監督)をご覧になった方なら、「口噛み酒(くちかみざけ)」の重要性はご存じだろう。ヒロイン・宮水三葉(みつは)姉妹が巫女として実家の神社で口噛み酒をつくるところを披露する。妹の四葉(よつは)が「巫女の口噛み酒」の商品化を提案したところ、三葉が「酒税法違反!」とたしなめるのだが、はたして「お酒をつくること」「売ること」は許されないのだろうか。

口噛み酒が取り上げられた作品といえば、ドラマやアニメにもなった「もやしもん」(石川雅之)が思い出されるが、今回は税理士である眞喜屋氏に、「税」の観点から「口噛み酒」について考察してもらった。

口噛み酒とは何か

口噛み酒とは、米などの穀物やイモ類、木の実などを口に入れて噛み、それを吐き出して溜めたものを放置して造るお酒のことである。別名では、女性が醸すことから「美人酒」と呼ばれていたらしい。

具体的には、穀物やイモ類などデンプン質の原料を噛んで壺やヒョウタンなどの容器に貯め、自然発酵を促して造られていた。原料のデンプンは唾液中のアミラーゼという酵素の働きで糖に分解され、その糖分を自然界に存在する酵母がアルコール発酵することで酒ができる。主に中南米や南太平洋のほか、東アジアでも台湾、沖縄、大隅半島など世界各地で造られていた。日本酒など米麹を利用して造る酒とは、その起源を異にしていると考えられている。

ご飯をずっと噛んでいるとだんだんと甘くなることは経験したことも多いはず。これは、唾液中のデンプン分解酵素であるアミラーゼやジアスターゼが、米のでんぷんを糖化するからであり古代の日本ではこの作用を利用して、米を糖に変え、さらに空気中の野生酵母で自然発酵させる手法で酒を造っていたといわれている。

ちなみに、日本酒を造ることを「醸す(かもす)」というが、これは「口噛みの酒」の「噛む」からきているといわれているのだ。

日本酒のルーツともいわれる「どぶろく」は、実は「清酒」とは区別されている。酒税法によれば「清酒」は米、米麹を使用し発酵させ「濾したもの」という定義がある。清酒の「清」は澄んだという意味があるのに対して「どぶろく」は「濾さない」ので米粒が残ったどろりとした酒のことをいっているのだ。

酒税法とは?

酒税法とは、酒税の賦課徴収・酒類の製造及び販売業免許等を定めた法律である。アルコール分1度(容量パーセント濃度で1%)以上の飲料が「酒類」として定義されている。度数90度以上で産業用に使用するアルコールについてはアルコール事業法で扱われる。

酒税法第2条第1項かっこ書の規定により法の適用を受けるアルコール分90度以上のアルコールの取扱いは、製造者がその製造場において酒類の原料用として製造したアルコール分90度以上のアルコール(酒類原料用アルコール)で、当該製造場又は他の製造場で酒類原料用に使用されるものは、アルコール事業法第42条《適用除外》の規定により、法の適用を受けることになる。「他の製造場」とは、本邦における他の製造場をいう。

従って、酒類の原料として使用されることが明らかな場合であっても、外国の酒類製造場に移出されるアルコール分90度以上のアルコールについては、アルコール事業法の適用を受けることになる。

自宅で梅酒などのお酒を造ったら違法なのか?

酒類の販売や造酒の免許を持ってないなら、個人で酒を作るのは違法である。

もしアルコールを生産すると酒税法でいう酒類に含まれていれば「酒税」の課税の対象になるので、ぶどう酒や焼酎、ビールはいずれも酒類でうっかり発酵させてはいけないものである。

しかし、例外もある。

消費者が自分で飲むために酒類に米・麦・ぶどうなど以外のもの梅などを混和しても、新たに「製造」したことにはなるのだが、消費者が個人で楽しむことが目的の場合は、例外的に「製造にあたらない」とされている。

ただ今回の映画にもあった「口噛み酒」はこの例外にあたらない。ヒロイン三葉のせりふにあるように、販売などしようものなら酒税法違反で摘発される可能性がある。

また、お正月にふるまわれる甘酒はお酒ではないので、自宅で作るのに許可は必要ない。法律上、例外として認められているのは「酒類の消費者が自ら消費するため」(酒税法43条11項)という場合だけである。

この規定の文章を厳密に考えれば、「自分以外の家族に飲ませるためでも駄目じゃないか」「家族にもあげられないのか?」と思われるが、国税庁の通達では「同居の親族が消費するためのものを含むものとし、他人の委託を受けて混和するものは含まないものとする」とされているので、同居家族のために作るのはセーフという運用のようである。

しかし、別居している子供や親戚、あるいは、近所の友人にあげるために作るのは、販売ではなくても、違法ということになるのだ。

過去に酒造して摘発された事例

「船場吉兆」が、酒税法上の許可を得ないで梅酒を製造・販売していたとして、大阪、福岡両国税局が国税犯則取締法に基づいて、船場吉兆と前社長にそれぞれ4万円の罰金相当額を納付するよう通告したという事例がある。

また自家製果実酒を宿泊客に提供している北海道ニセコ町のペンションが、違法だとして、税務署から没収・廃棄処分を通告されました。酒税法によって、違法な酒の製造・販売については、税務署が取り締まっているのだ。

お酒が好きだから、自分で酒を造りたいから酒造免許を取ろうと思っても、法律で決められた量を製造することが免許の前提になってる。これが結構大きな数字で、残念ながらとても自家製造の範囲の量ではない。購入して楽しんだほうがいいだろう。

眞喜屋朱里(税理士、眞喜屋朱里税理士事務所代表) この筆者の記事一覧

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