不妊治療,AGE,男性不妊
(写真=PIXTA)

「AGE(終末糖化産物)の蓄積が、配偶子や受精卵を体外で取り扱う高度不妊治療のART(生殖補助医療)の治療成績に影響を与える」--。

これはノニジュースなど健康食品事業を展開するモリンダとHORACグランフロント大阪クリニックが第61回日本生殖医学会で発表した、AGEの蓄積が不妊治療の成績に影響することを確認した研究の内容だ。

不妊に悩む人にとって、その原因が何なのか・対策をどのように講じればいいのかなど、少しでも手がかりとなるような情報は貴重な存在と言える。

モリンダの研究結果が不妊治療にとってどのような意味を持つものなのか、AGEの意味やARTとの関係性・不妊治療市場や識者の見解などを検証しながら詳しく見ていくことにしよう。

「AGE」とは何なのか? なぜ体内で蓄積されるのか?

AGE、正確には「AGEs(Advanced Glycation End Products)」のことを言い、日本語では「終末糖化産物」となる。

言い換えると「タンパク質と糖が加熱された結果できた物質」のこと。基本的には強い毒性を持っており、人体の老化を進める原因物質と言われている。

老化と言えば連想されるのがお肌のシミやシワ・認知症などかもしれないが、影響として考えられるのは実はそれだけではない。

AGEが蓄積すれば、心筋梗塞や脳梗塞・骨粗しょう症・白内障などの一因となる。AGEは美容への影響だけでなく、臓器や骨・目など全身の健康に影響を及ぼすと言える。

AGEが体内に溜まってしまう原因は2つ。1つは高い血糖値が長期間続いてしまう場合。体内に糖がたくさんあればあるほど、タンパク質と大量の糖が結びつきAGEが作られやすい。

もう1つは食べ物。一般的に利用する食べ物の中から、AGEの7%が人体に取り込まれ最終的に蓄積すると言われている。

人間の体を形成している組織は、主にタンパク質。しかも、食事から糖を摂取しエネルギーをつくりだして生活しているので、AGEを全く発生させないということはできない。

ただ、食べ過ぎを繰り返すことにより出てしまう余った糖分は、過剰なAGEを作りだす原因となるので、糖や炭水化物を余分に摂りすぎないこと・血糖値が急上昇しないような食べ方が重要となる。

モリンダの研究結果の要旨

今回モリンダが発表した「AGEの蓄積が不妊治療の成績に影響することを確認した研究の内容」は、ARTを受ける人にとって、不妊を解決するための新たな策のヒントになる可能性を秘めたとても重要な情報だと言える。

調査の結果、3つの研究成果が得られた。1つ目は、特に不妊原因がない人の例と比較し、不妊原因となる「子宮筋腫」群と「胚質不良」群のAGE値が高値を示していること。

2つ目は、AGEが高値を示す群では、AMH(アンチミューラリアンホルモン:発育過程にある卵胞から分泌されるホルモン)値が低値を示していること。

3つ目は、AGE値が低値となる群では受精率や胚発育に差が無かったものの、非妊娠例では妊娠例と比較して有意にAGE値が高値を示したこと。

以上の結果から、AGEの蓄積が不妊やARTの治療成績の悪化に関係していることが明確化された。さらに今後、卵巣機能や不妊原因の診断を行う場合にAGEの測定はとても意味のある指標となり、バイオマーカーとしての利用が可能であることが示唆された。

現在の不妊治療に対する政府方針、それを受けての市場動向は?

政府は「希望出生率1.8」の実現を目指しており、全都道府県・政令指定都市・中核市に不妊専門相談センターを2019年度までに配置する方針を示している。

結婚する時期の遅延や妊娠・出産年齢の上昇、医療技術の進歩への期待などから不妊治療を希望する人が増えていることが今回の政府方針の背景となっており、不妊治療への不安解消を進めることにより出生率を引き上げるきっかけとしたい考えだ。

現在不妊に悩む夫婦は6組に1組とも言われており、日本産科婦人科学会は2013年に国内の医療機関で約36万8000回の体外受精が行われたと発表している。

しかし、不妊治療は心や体への負担が重く、治療にかかる費用も数十万円から数百万円と高額な例が多い。例えば、体外受精を行う場合、1回当たり30~40万円程度の費用がかかると言われている。

このような状況を受けて、厚生労働省は今年1月から不妊治療にかかる費用への助成を拡充する施策を実施。初回助成に設けられていた費用上限を、15万円から30万円に倍増し、男性不妊治療への助成金制度(精子採取の手術費用に15万円を助成)も新設した。

さらに、金融庁は4月から不妊治療の費用保障を行う保険商品の発売を解禁。これらの施策を利用して不妊治療を受けようと考える人が増加することが予想されている。

体外受精や顕微授精など、特定不妊治療にかかる費用は1回40万円だともとも言われており、それだけでも市場規模は約1472億円(=36.8万回×40万円)となる計算だ。

その他の人工授精や診療費などの費用も全て合わせて計算するとなると、不妊産業の規模は莫大な市場に膨らむこととなるだろう。

まずは妊娠しやすい健康的な体づくりを

不妊治療の医学技術は年々進歩してきており、結婚と出産を推奨する政府の方針からも、不妊治療にかかる費用への歳出拡大が進められている。

不妊に悩む多くの夫婦がそのような進んだ技術を、経済的な負担ができるだけ少ない形で利用する実例は、今後さらに増えていくだろう。

しかし、今まで高度技術を利用し多くの不妊治療を行ってきたウィメンズクリニック神野(東京)の神野正雄院長は、Webサイトのインタビューで次のように述べている。

「ただただ排卵誘発して、無理やり体外受精をしても不良な胚ができるだけです。大切なことは、まず、患者さんに健康になってもらうことです。母体はもちろん、パートナーの男性もです。よい卵子や精子をつくるには、まずは、 患者さんが健康で幸せな状態になることから始めること。これがなければ次のステップはないと言っても過言ではありません」
(Webサイト「妊娠しやすいカラダづくり」より)

過剰にAGEを作りださないよう、糖や炭水化物を余分に摂りすぎないこと・血糖値が急上昇しないような食べ方を行うことは、不妊治療への良い影響が期待できるだけでなく、母体の健康やお腹の子供の発育にも好影響を与えると言えそうだ。(藤瀬雄介、スポーツ・ヘルスケアライター)

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