これまで給与所得者として勤めていた方にとって、退職後の確定申告と言うのは未知の部分が多いかと思う。退職後に再就職した場合や、退職金を受け取った場合であっても条件によっては確定申告が必要となるのである。ここでいう必要とは、税法上申告義務があるというだけでなく、納税者自身にとっても確定申告をした方が良いという意味だ。

退職したあとの確定申告の扱いとは

そもそも給与所得者が確定申告を行う必要がないのは、年末調整によって給与支払者がこの手続きを代行しているためだ。

年末調整とは給与所得者の所得税を確定する手続きであり、源泉徴収税によって収めていた税額が不足していれば追納、過剰であれば還付することでバランスをとる。

しかし、年末調整を受けられるのは給与所得者のみであり、当然退職した者に対して給与支払者はこれを行う義務を持たない。退職した者は年末調整によって行われていた所得税の確定という手続きを、確定申告によって行わなければいけないのだ。

退職後に行われる確定申告は一般に還付申告といって、通常の確定申告とは若干扱いが異なる。還付申告とは文字通り還付を受けるための申告であり、所得税を確定させるという意味では確定申告と変わらないが、より「納め過ぎた税金を取り戻す」という意味合いが強い。

源泉徴収税は、「該当月の給与所得が1年間支払われた場合」を想定して徴収するものであるため、年の中途で退職した場合は通常、源泉徴収税(所得税)を納め過ぎている状況が発生してしまうのだ。

このため退職した者にとって退職後の確定申告とは、義務であると同時に還付金を受け取るために必要な手続きなのである。

退職後に再就職した場合や退職金をもらった場合の確定申告の扱いとは

退職後に再就職した場合は、変わらず年末調整が行われるため確定申告は不要なように思える。

しかし、再就職先の給与支払者は、給与所得者の前職における源泉徴収の状況を把握できなければ、年末調整によってバランスを取ることができず、結果前職の給与所得について納め過ぎた所得税に関しては還付されない。

また、退職時に退職金(退職手当)を受け取った場合、この所得には通常の給与所得と同様、あるいはそれ以上の税率によって源泉徴収が行われる。

具体的には、退職手当の支給額に20.42%の税率を乗じて源泉徴収が行われる。この20.42%というのは勤続年数や支給額に寄らない一律の税率であるため、退職所得控除を受けるためには受給者本人が確定申告(還付申告)を行わなければならない。

確定申告が必要になる条件

2つのケースにおいて、給与所得者(退職手当受給者)本人が確定申告を行わずに済ませるためには、次のような対策を取れば良い。

まず退職後、年の中途で再就職を行った者は、前職の源泉徴収票を速やかに再就職先へと提出すること。

これが年末調整に間に合えば、当年の年末調整において給与支払者は源泉徴収状況の把握ができるため、給与所得者が別途確定申告を行う必要性はなくなる。この場合、前職の源泉徴収票を再就職先へ提出する期限は、本年中あるいは翌年の1月ということになる。

通常年末調整は当年中に行われるが、これには翌年の1月31日という最終期限があり、この期限は本来給与支払者にとっての事務手続き等の猶予期間として設定されている。

もしも期間中に源泉徴収票の準備が間に合うのであれば、事前に給与支払者に再年調(再調整)を依頼しておくと良いだろう。

退職手当を受け取る場合は、手当を受け取る時点までに「退職所得の受給に関する申告書」を給与支払者に提出すれば、確定申告を行わずとも前述の控除が適用されることとなる。

この申告書は国税庁ホームページに書式が用意されているほか、最寄りの税務署(源泉所得税担当)で相談を受け付けている。退職手当を受け取ることが確定した段階で、速やかに準備を行うべきだ。

退職後の確定申告の手続きの流れ

再就職後、前職において源泉徴収票が発行されない場合や、すでに退職手当を受け取ってしまった場合は、還付申告を行うほかない。

手続きの流れは基本的に確定申告と同様だが、還付申告の手続きは一般的な確定申告と比べるとかなり簡易であるため、そう身構える必要はない。

必要な書類と期限

還付申告においては、確定申告書と、そのほか控除を受けたい関連証明書等を揃えよう。確定申告書にはAとBの2つのタイプがあるが、還付申告の場合は簡易版の確定申告書Aを用いれば基本的に十分である。

関連証明書とは、社会保険料控除や生命保険料控除ならば該当保険の控除証明書がそれに当たる。

確定申告の期限は例年2月16日から3月15日まで(休日等によりずれる場合はある)となっているが、還付申告については1月1日から前年分の申告が可能であり、またその期限も5年以内となっている。

確定申告をしなかったことで所得税を納め過ぎてしまっていたという方は慌てず、自身が適用できる所得控除について把握した上で還付申告を行うと良いだろう。