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(写真=PIXTA)

中国は改めて言うまでもなく、偽物大国である。ネットショッピング最大手のアリババ集団は、創業者の馬雲自ら、「中国の偽物の品質は本物よりも良い」と発言し、世界のひんしゅくを買った。今回のニュースは偽札である。

中央銀行(中国人民銀行)Webサイトには、常に偽札への取組みが掲載されている。中国通貨博物館では、「反偽通貨展」を開催中だ。市中の銀行へ行けば、反偽札キャンペーンのパンフが目につく。偽札は今でも身近な存在である。四大国有銀行で両替をしても、つかまされることが本当にある。そうした中、有史以来最大という偽札流通事件が摘発された。

偽20元札、市中に出回る

今年4月、山東省・烟台市の検察機関に「偽紙幣を販売している者がいる」と通報が入った。メールアドレスや運送業者などの情報も得られた。分析した警察はこれを真実と判断し、容疑者・李某の追跡を開始した。

5月19日、警察は李の偽札が湖南省・永州道県へ配送されたことを確認した。宛名は郭某、宛先は人民医院だった。警察は郭への張り込みを開始、電話やメールを不断に監視した。郭は新車を購入していた。5月26日、郭はその新車に乗って意気揚々と引き揚げる途中、警察に捕まった。自宅とは別の場所で、偽20元札3万元とプレス機などの設備が発見された。

5月24日には、同じく李の宅配便を受け取った、広東省・中山市の3名も逮捕された。押収した偽札は15キロだった。このときの捜査から、次の顧客は山東省・連雲港市の者で、やはり15キロ発送されることが分かった。警察は翌25日夜、発送直前の証拠物件とともに李一味を逮捕した。

烟台市郊外のアジトでは、偽20元札の印刷を行っていた。ネットで注文を受けるとキロ当たりの従量制で、各地へ発送していた。判明した金額は1000万元(1億6300万円)以上。流通先は15省27都市に拡がっていた。ほぼ中国の半分である。

主犯は23歳、普通の青年

李は山東省済寧市出身の23歳。烟台市の専門学校を卒業している。李は「私は卒業後、特別な努力をした。毎日遅くまで残業した。そして印刷機、CADシステム、コンピューターなどの運用、修理に習熟した。仕事には達成感もあった。唯一不足していたのは給料だった。マンションを購入して結婚したかった」という。こうした“青年らしい”動機に駆られて、偽札製造に走る。

そして今年の2月から偽札の販売に乗り出した。彼はコンピューターを駆使した設計技術では、非常に高いスキルを有していた。彼の作った20元札は、犯罪グループが見ても、その精緻な出来栄えは見事だった。やがて販売部門は李の手を離れ、犯罪グループが担当する。彼は3カ月で30万元の不法収入を得た。

20元という少額紙幣を選んだのは、やはりためらいがあったからである。ほとんどのレジ係は100元札は裏表ひっくり返してチェックするが、20元札なら誰もしない。しかし、その仕上がりを称賛されるまでになると、50元紙幣、100元紙幣へと欲望を膨らませた。すでに見本は完成していて、初出荷を待つばかりであった。警察の迅速な摘発により、阻止されるとともに、李の夢も終結したのである。

中国はいつものとおり

今回も5月に逮捕した件を12月になって報じている。警察の勝利確定の後、批判の芽を封じてから発表するいつもの手法である。

ところで1000万元くらいで、有史以来の偽札事件という見出しは少しばかり大げさだ。他に大きな事件はいくらもあったはずである。何しろ博物館では古代〜現代までの大通貨展覧会が開かれているのだ。

ただし今回は、犯罪組織のバックもない普通の青年が、簡単に大事件を引き起こした。その衝撃は相当大きかったかもしれない。中国の偽物作りは歴史に根差した風土であり、一朝一夕に変るものではない。当局とのいたちごっこは半永久的に続くのだろう。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)