中国の国家広電総局電影専項資金辯公室の統計による12月5~11日の週、全国の映画チケット収入は、7億2100万元で前週比15%のマイナスだった。しかし沈滞気味の中、前週、前々週ともトップは“你的名字”(原題「君の名は。」)である。前週は2億500万元、累計では5億元を突破した。人気は上々だ。
中国語で名字とは、姓ではなく下の名を指す。ちょうど“你的名字”が話題のおり、日中の姓名について中国側資料を用いて考察してみたい。
日本人の姓名の特徴
中国人から見た日本姓の特徴をネット辞書から拾ってみる。
- 1~3字で構成されている。4字姓もある。
- 明治維新まで平民に姓はなく、1875年の「平民苗字必称令」により付けられた。
- 90%の姓は、そのときの発祥である。そのため改姓しやすい。いまでも普通に行われている。
- 一般的に妻は夫の姓を名乗る。ただし婿入りし妻の家を継ぐときはこの限りではない。
そして日本人の姓名の由来には主に2種類あるとする。
- 日本最大の姓・佐藤姓は、一説によると藤原秀郷とその家中、左衛門尉の後嗣とされる。家族の興隆を願う日本人は、藤原氏にあやかることが多かった。また日本第二の姓・鈴木は、いにしえの武将に由来している。
- もう1つは川、田、山、野など自然と不可分な字の採用である。さらに日、月、星、や 花、鳥、魚、虫にまでいたる。「平民苗字必称令」のとき、あまり教養の高くない民衆は、これらの字を姓にした。また職業を姓にする者もいた。
そうして日本の姓は十数万種にまで増加した。日本の人口1億2~3000万からすると、1姓あたり1000人もいない。10大姓(鈴木、佐藤、田中、山本、渡辺、高橋、小林、中村、伊藤、斉藤)の総人口に占める割合は10%である。
中国人の姓名
これに対し中国の姓は自らの所属する一族、宗族または集団を表すものだ。したがって姓は必ず名乗る。そしてその数は極めて少ない。歴史上の文献に現れた姓は5662、そのいち6割は1字姓である。宋王朝時代には628、明王朝時代には1594という史料がある。また共産党政権の初期、北京には2200、上海には1400の姓しかなかった。
現代では、(1)李、(2)王、(3)張、(4)劉 (5)陳の5大姓で約4億人、全人口の32.3%を占める。(6)楊、(7)趙、(8)黄、(9)周、(10)呉、を加えたトップ10では、5億5000万人、44.1%にもなる。さらにトップ300まで全部1字姓である。中国人の姓は1字といって差支えない。
筆者はビジネスで“張良”さんと名刺交換をした。歴史上の張良とは、2200年前、漢の高祖・劉邦の天下取りを支えた名参謀だ。今でもその名は知恵袋の代名詞である。現代もそうした名前を普通に付ける。中国史の連続性と中国人のおおまかさを実感した。
名は子供のころは“乳名”“小名”の愛称で呼ばれる。陰陽五行説や、画数による吉凶もあり、名付けは専門家に依頼する。成長するとともに小名は使われなくなる。親しい範囲では、姓に“小”または“阿”を付け、“小張”“阿杜”などと呼ぶ。年配になるとこれが“老”に変り、“老王”“老劉”となる。筆者も最初の一字に老付けで呼ばれている。中国では時間の経過とともに1字に集約され、結局最後には1字姓となる。このあたりも中国的な大まかさである。
中国は大まか、日本は細かいという比較は姓名においても言える。中国の姓は仲間かどうかを表す旗印である。日本は仲間うちを信頼し、花鳥風月を愛でる余裕もあり、それが多彩な姓の展開につながった。
日本と中国の文化には、姓ひとつとっても実に大きな隔たりが横たわっている。しかし「君の名は」はどちら側でも大ヒットした。相互理解の架け橋としての意義は大きい。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)