遺産を相続する可能性のある人は、実際の相続開始に際して戸惑うことのないよう、その範囲や相続割合について理解しておくべきだ。財産を遺す側の人間もまた、相続割合に定められた相続分や遺留分を理解することで公平な遺言書を記す一助となるはずだ。特に遺留分を侵害する形で財産を指定した遺言書は、相続人の間でのトラブルの種となりやすい。これから遺言書の用意を考えている方は、ぜひ気をつけていただきたい。

目次

  1. 遺産相続人の範囲と優先順位
    1. 第1順位:被相続人の子供
    2. 第2順位:被相続人の直系尊属(父母や祖父母など)
    3. 第3順位:被相続人の兄弟姉妹
  2. 遺産分割の基準となる法定相続分
  3. 遺産相続人の遺留分と遺言の関係
  4. 相続人不存在の場合の遺産手続
  5. 遺産相続における遺言書の重要性

遺産相続人の範囲と優先順位

相続人の範囲は、民法で次の順序で定められている。またいずれの順位の人が相続人になった場合においても、亡くなった人(被相続人)の配偶者は常に相続人となる。

第1順位:被相続人の子供

その子供が既に亡くなっているときは、その子供の直系卑属(子供や孫など)相続人となる。子供も孫もいるときは、被相続人により近い世代である子供が優先される。

第2順位:被相続人の直系尊属(父母や祖父母など)

父母も祖父母もいるときは、被相続人により近い世代である父母が優先される。第2順位の人は、第1順位の人がいないとき相続人になる。

第3順位:被相続人の兄弟姉妹

その兄弟姉妹が既に亡くなっているときは、その人の子供が相続人となる。第3順位の人は、第1順位の人も第2順位の人もいないとき相続人になる。

なお相続を放棄した人は初めから相続人でなかったものとされ、また内縁関係の人は相続人に含まれない。

遺産分割の基準となる法定相続分

遺産分割の基準となる割合(法定相続分)は、相続した人の順位に応じて次の通りに定められている。

被相続人の配偶者と第1順位(子供)が相続人である場合は配偶者が1/2、子供(2人以上いるときは全員で)は1/2。被相続人の配偶者と第2順位(直系尊属)が相続人である場合には配偶者が2/3、直系尊属(2人以上いるときは全員で)は1/3。

被相続人の配偶者と第3順位(兄弟姉妹)が相続人である場合は、配偶者が3/4、兄弟姉妹(2人以上いるときは全員で)は1/4となる。なお、各順位の者(子供、直系尊属、兄弟姉妹)がそれぞれ2人以上いる場合は、原則として均等に分けられる。

また、民法で定める法定相続分は、「相続人の間で遺産分割の合意ができなかったときの遺産の取り分」であり、必ずしもこの相続分で遺産の分割が行われることを強制するようなものではない。

遺産相続人の遺留分と遺言の関係

被相続人が遺言書を遺していた場合、その遺言書によって指定された財産の配分割合を指定相続分といい、法定相続分などよりも尊重される。ただし、これは指定相続分が遺留分を侵害しない(規定に違反しない)場合に限る。

遺留分とは、相続人に認められる最低限保障されるべき遺産の割合のことで、相続人の立場等によって次のように規定されている。

遺留分権利者が相続人が直系尊属(父母や祖父母など)のみは遺留分算定の基礎となる財産の1/3が認められ、遺留分権利者が上記以外(配偶者や子供など)であれば、遺留分算定の基礎となる財産の1/2が認められる。

被相続人の兄弟姉妹には遺留分はない。なお遺留分算定の基礎とは、次の式によって算出される価額のことである。

相続時の財産の価額+被相続人が生前に贈与した価額+特別受益額-相続債務

このとき「被相続人が生前に贈与した価額」に算入される贈与の範囲は、相続開始前の1年間に行われたものに限る。ただし1年以上前の贈与でも、契約当事者が遺留分において認められている遺留分権を知って行ったものは算入される。

また、生前贈与が相続人に対して行われ、それが特別受益(利益)となる場合には1年以上前の贈与であっても算入される。およそ一般的に相続税節税のために行われる生前贈与に関しては、そのほとんどが特別受益に当たるとして遺留分算定の際に考慮されると見るべきだろう。

相続人不存在の場合の遺産手続

もしも前述したような法定相続人が不在である場合、あるいは法定相続人と認められる全員が相続を放棄した場合、その相続は相続人不存在として扱われる。こうしたケースでは、被相続人が遺言を遺しているか否か(遺贈の有無)によって取るべき対応が異なる。

被相続人が遺言書を遺しており、遺贈を受ける者(受遺者、包括受遺者)がいる場合は、その人が各種手続きを執り行うこととなる。

遺言等もない場合は、被相続人の債権者などの申し立てによって「相続財産管理人」を家庭裁判所が選任することとなる。

遺産相続における遺言書の重要性

あなたが相続人になるにせよ被相続人になるにせよ、遺産相続においては遺言書の有無が非常に重要であるということを忘れてはいけない。遺言書が遺されているにも関わらず、これを無視して遺産分割協議が行われた場合には、協議内容が全くの無効となってしまう可能性も高い。

また、遺言書において遺留分を侵害する範囲の相続分を指定してしまうと相続人同士の不要なトラブルを招きかねない。いずれの問題も、被相続人や相続人の間での理解が及んでいれば避けられるはずなので、注意していただきたい。