親族を持つ者にとって相続とは、遺す側にせよ受け取る側にせよ、常に発生する可能性のあるものだ。しかしそれだけ関わりの深い手続きでありながら、その具体的な内容を把握している人は案外少ないのではないだろうか。
今回は相続とはそもそもなにかということから、実際の相続開始に際して必要になる手続きなどについてまとめた。将来相続する可能性があるという方はもちろん、現在相続についてなにか悩みがある方なども、今一度確認していただきたい。
相続とは
相続とは、自然人(単に人とも)が亡くなった際に、その人が所有していた財産(債務を含む)をその人の配偶者や子などの親族が引き継ぐことを言う。亡くなった人を被相続人、財産を引き継ぐ人を相続人と呼ぶ。
相続は民法において、被相続人の死亡によって、その住所において開始することとされている。例えば東京在住の者が旅行中などに死亡したとしても、相続が開始される場所は旅行先でなく住所がある東京ということになる。なおここでいう死亡には、生死不明の者などを死亡したものとみなす失踪宣告や認定死亡も含まれる。
相続できるもの、相続できないもの
相続においては、相続人は相続開始のときから被相続人の財産及びそれに属した一切の権利義務を承継するとされている。つまり、基本的に被相続人が所有していた財産や権利・債務などはすべて相続されることとなる。
ただし、被相続人の一身に専属したものはこの限りでない。一身に専属したものとは、端的に被相続人の社会的な地位や、被相続人が所持していた資格、一部の権利などである。具体的には、次のようなものが該当する。
・使用貸借における借主の地位(無償で物を借りているという立場)
・雇用契約における地位(その会社で労働する権利)
・委任契約上の地位(売買契約における売主や買主、不動産貸借契約における賃貸人、貸借人といった立場)
・恩給受給権(生活保護の受給権など)
・資格(医師免許、運転免許など)
・扶養請求権
またこれには含まれないが、被相続人の死亡によって相続人が取得した生命保険金については、一部例外はあるものの原則的に相続財産とはみなさず、受取人の財産として評価することが多い。
相続できる人とは
相続人になれる者は、次の順序で定められている。
第1順位:被相続人の子供
その子供が既に死亡しているときは、その子供の直系卑属(子や孫など)が相続人となる。子供も孫もいる場合には、被相続人により近い世代である子供の方が優先される。
第2順位:被相続人の直系尊属(父母や祖父母など)
父母も祖父母もいるときは、被相続人により近い世代である父母の方が優先される。第2順位の人は、第1順位の人がいないとき相続人となる。
第3順位:被相続人の兄弟姉妹
その兄弟姉妹が既に死亡しているときは、その人の子供が相続人となる。第3順位の人は、第1順位の人も第2順位の人もいないとき相続人となる。
いずれの順位の人が相続人となる場合においても被相続人の配偶者は常に相続人となり、該当する順位の人が相続を放棄した場合は、その人は初めから相続人でなかったものとされる。また内縁関係の人は相続人に含まれない。
相続の仕方
前述の通り相続そのものは被相続人の死亡によって自動的に開始されることとなるが、財産の名義変更や相続税の申告といった諸々の手続きは相続人自身の手で行わなければならない。加えて、相続人が複数いる場合には遺産分割協議を開始する必要もあるだろう。
被相続人の立場からすれば、遺言書を記すことでこの遺産分割協議の手助けをすることも可能だ。ただし遺言書を遺す際は、遺留分(相続人に認められる最低限保証されるべき遺産の取り分)などについて十分配慮しなければ、かえってトラブルの種となってしまう可能性もあることに注意しよう。
相続にかかる税金
相続に際しては、相続した財産の価額に応じて相続税が課せられるほか、不動産などの固定資産を相続した場合には登録免許税などの費用が発生する。相続税が、基礎控除(3000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)によって免除された場合には申告義務が発生しない税金であるのに対し、登録免許税は不動産を相続した場合には必ず支払わなければならない税金である。
一般的な贈与などによって取得した場合(2.0%)に比べると課せられる税率は少ない(0.4%)ものの、相続する不動産の価額によっては相当の税額が見込まれるだろう。
固定資産を所有する方は流動資産の備えも
相続に際してかかる費用を正確に見積もることは非常に難しいが、もしも相続する可能性のある財産のほとんどが固定資産であるという場合などは、流動資産(金銭)を用意することである程度これに備えることができるはずだ。具体的には、相続人を受取人とする生命保険への加入などといった方法が考えられるだろう。
いざ相続が開始したときにもめることのないよう遺言書を遺すこと、また相続人の側であれば遺言書を真っ先に確認することを忘れてはいけない。