2017年1月、次期米大統領に就任するドナルド・トランプ氏は、劇的な勝利を収めた選挙戦で、激しい「口撃」を仕掛けたのは、対立候補のヒラリー・クリントン元国務長官だけにとどまらなかった。

アメリカ国境沿いに不法移民防止のための壁を建設し、その費用はメキシコ政府に負担させるといった発言で世間を驚かせたと思いきや、在日米軍の駐留経費の全額負担を求める考えも明らかにし、日本も対岸の火事では済まない状況だ。

さらに、国際社会で存在感を増す中国に対しては、激しい批判を展開。米国内の製造業の雇用を取り戻すべく、中国製品に高関税をかけるほか、大統領就任初日に、中国を為替操作国に認定すると宣言している。トランプ次期大統領がここまで躍起になる「為替操作国」とは何を意味するのか。

3項目のチェックで為替操作国認定

為替操作国が認定されるプロセスは次の通りだ。まず、米財務省が半年に1度、米議会に対して外国為替相場の状況に関する報告書を提出。

この中で、1.貿易収支(対米貿易黒字が200億ドル以上)、2.経常収支(経常黒字がGDP3%以上)、3.為替介入(年間GDP2%以上の為替介入規模)についてチェックする。3項目のうち、2つに該当すると「監視対象国」となり、項目すべてに当てはまると「為替操作国」となる仕組みだ。

為替操作国の認定は、米国政府の一方的な措置に過ぎないが、ひとたび認定を受けると、その影響力は計り知れず、米国からの関税引き上げなど制裁措置の対象となるだけでなく、他国からも通貨の切り上げを求める圧力がかかる。

大統領の座に就く日に、中国に対して為替操作国認定をすると高らかに宣言しているトランプ氏だが、実際には、米財務省の報告書で3つの項目に該当しなければ為替操作国にはならず、現在のプロセスを変えない限り、一夜にして中国が為替操作国となる事態にはならない。

日本も監視対象国

16年10月に発表された米財務省の最新の為替報告書によると、日本・韓国・ドイツが貿易収支、経常収支の項目に該当し、前回の4月調査から変わらず監視対象国にとどまった。また、台湾とスイスは経常収支、為替介入の項目にチェックが入り、同じく監視対象国だ。台湾は前回の報告書から状況に変化はなかったが、スイスについては今回の報告書で新たに監視対象国に追加された。

中国の評価については、前回調査では、貿易収支に加えて経常収支の項目にもチェックが入り、監視対象国となっていたが、10月の報告書では貿易収支のみが該当した。経常収支黒字は基準のGDP3%を下回り、2度の人民元切り下げも、一方的かつ継続的な為替介入には関与していないと判断された。

一旦、監視対象国となると、2期連続して監視リストとなるルールがあるため、中国は監視対象国にとどまる。現行のルールでは、次回の報告書で該当項目が1つ、あるいは該当項目なしとなれば、中国は監視対象国のリストから外れることとなる。現況を鑑みると、中国より日本・韓国・ドイツ・台湾・スイスの方が為替操作国に近い状態だ。

中国叩きで米製造業復活?

米財務省の報告書の中国に対する評価は、トランプ次期大統領の発言ほど一方的に自国の貿易・為替を優位にコントロールしているというものではない。しかし、米国内のラストベルトと言われる錆びついた工業地帯では、グローバル化の進展とともに労働条件が悪化。

製造業の復活を願う多くの労働者の支持を集めて次期大統領の座を射止めたトランプ氏は、中国は自国通貨を切り下げ、米企業との競合で優位に立ち、米国の雇用を奪っているとして、中国製品に対する関税の大幅引き上げなどで競合条件をならす考えだ。中国は米国の最大貿易国となり、15年の対中貿易赤字は3660億ドル(43兆1900億円)に上ることも、事態の打開策としてトランプ氏が目を付けた。

中国を為替操作国に認定し、最大45%の関税をその輸入品に課すというトランプ次期大統領の発言には不安要素も残る。関税が引き上げられると、輸入品の価格上昇に直結し、消費者の負担となる。多くの中国製品に頼る米市場において、関税の引き上げは、所得が低い人ほど影響を受けやすいとされる。また、米国の措置に対し、大国となった中国も傍観するはずはないだろう。中国が報告関税を課せば、製造業の拠点を米国に回帰できたとしても、その製品は世界最大の市場である中国では競合できなくなってしまう。

過激な発言で大統領の座まで登り詰めることに成功したトランプ氏だが、中国に対する為替操作国については、これまでの米財務省による為替報告書との整合性が求められるほか、制裁関税に対するリスクも考慮しなければならず、大統領就任の当日、トランプ氏がどのような行動に出るのか、注目が集まる。(ZUU online 編集部)

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