16年11月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て通関ベース)は前年同月比11.4%増と、前月の同1.4%減から大きく上昇した(図表1)。輸出は16年初から海外需要の底入れの動きに資源価格の上昇が加わって緩やかに増加している。輸出の伸び率は振れ幅が大きく、11月は2013年1月以来の二桁増まで上昇したものの、基調としては緩やかな伸びに落ち着くものと予想される。
タイ の16年11月の輸出額は前年同月比10.2%増(前月:同4.2%減)と上昇し、2ヵ月ぶりのプラスとなった。16年以降、輸出の伸びは上下に大きく振れているものの、金額ベースでは緩やかな増加傾向が続いている。一方、輸入額は前年同月比3.0%増と、前月の同6.5%増から低下した。結果、貿易収支は15.4億ドルの黒字(前月から12.9億ドル増加)と、19ヵ月連続の黒字となった(図表3)。
輸出を品目別に見ると、全体の約8割を占める主要工業製品は同9.8%増(前月:同2.7%減)と2ヵ月ぶりのプラスとなった(図表4)。機械・装置(同25.2%増)や電子製品・部品(同5.6%増)、家電製品(同5.8%増)、自動車・部品(同5.9%増)など幅広い品目が増加した。また鉱業・燃料は同9.4%増(前月:同22.1%減)と、石油製品を中心に大きく上昇し、2年2ヵ月ぶりのプラスとなった。さらに、農産品・加工品は同12.2%増(前月:同6.5%減)と、中国の農産物需要の増加を受けてコメ(同25.9%増)やゴム(同15.6%増)を中心に上昇し、2ヵ月ぶりのプラスとなった。
マレーシア の16年11月の輸出額は前年同月比7.5%増(前月:同6.9%減)と上昇した。輸出の伸び率は16年初に資源価格が上昇に転じてから緩やかに持ち直しており、足元では底打ちの動きがみられる。一方、輸入額は前年同月比10.6%増と、前月の同4.8%減から上昇した。結果、貿易収支は20.9億ドルの黒字と、前月から2.5億ドル黒字が縮小した(図表5)。
輸出を品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同13.5%増(前月:同0.4%増)と主力の電気・電子製品を中心に上昇し、2014年4月以来の二桁増を記録した(図表6)。また動植物性油脂も同27.6%増(前月:同5.7%増)と、パーム油・同製品を中心に大きく上昇した。鉱物性燃料は同13.2%減となり、依然として原油・天然ガスを中心に減少傾向が続いているものの、前月の同21.5%減からマイナス幅が縮小した。また製造品も同4.0%減(前月:同28.3%減)と、アパレルやゴム手袋を中心にマイナス幅が縮小した。
インドネシア の16年11月の輸出額は前年同月比21.3%増(前月:同5.1%増)と大きく上昇し、14年8月以来の二桁増を記録した。輸出は16年から緩やかに持ち直すなか、足元ではコモディティ価格の上昇も追い風となっていることが11月の急伸に繋がった。一方、輸入額は前年同月比9.9%増と、前月の同3.6%増から上昇した。結果、貿易収支は8.4億ドルの黒字と、前月から4.0億ドル黒字が縮小した(図表8)。
輸出を品目別に見ると、それぞれ全体の1割強を占める石油ガスが同26.3%減(前月:同23.5%減)と引き続き全体の重石となる一方、製造品が同26.0%増(前月:同5.8%増)とパーム油を中心に上昇した(図表7)。また鉱業製品は同50.1%増と、高水準だった前月(同29.8%増)から一段と上昇した。さらに農産品も同25.1%増と、前月(同15.9%増)から一段と上昇し、2ヵ月連続の二桁増を記録した。
ベトナム の16年11月の輸出額は前年同月比16.3%増(前月:同7.6%増)と上昇し、2ヵ月ぶりの二桁増となった。輸出の伸び率は昨春に政府目標(前年比10%増)を下回る状況が続いたものの、8月以降は勢いを取り戻しつつある。一方、輸入額は前年同月比19.6%増と、前月の同14.4%増から上昇した。結果、貿易収支は2.4億ドルの赤字(前月から2.0億ドル増加)と、2ヵ月連続の赤字となった(図表9)。
輸出を品目別に見ると、輸出全体の約2割を占める電話・部品が同17.6%増(前月:同6.4%増)と一段と上昇した(図表10)。また織物・衣類は同11.6%増(前月:同1.2%増)、履物は同9.3%増(前月:同9.7%増)とそれぞれ上昇した。一方でコンピュータ・電子部品は同25.5%増(前月:同30.6%増)と鈍化したものの、高い伸びを維持した。食品はコメ(同52.4%減)が引き続き大きく減少したものの、コーヒー(同28.7%増)、水産物(同13.7増)、野菜(同31.1%増)など総じて増加した品目が多かった。
輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同18.8%増(前月:同11.5%増)、地場企業が同10.3%増(前月:同0.9%減)と、それぞれ上昇して二桁増となった。
シンガポール の16年11月の輸出額(石油と再輸出除く)は前年同月比11.8%増(前月:同11.0%減)と大きく上昇し、3ヵ月ぶりのプラスに転じた。16年以降、輸出の伸びは医薬品の変動が大きいために上下に振れているものの、基調としては底入れに向かっているものとみられる。なお、総輸出額は前年同月比8.5%増(前月:同8.2%減)、総輸入額は同9.7%増(前月:同5.0%減)と、それぞれ大きく上昇してプラスとなった。結果、貿易収支は34.9億ドルの黒字と、前月から5.8億ドル黒字が縮小した(図表11)。
輸出(石油と再輸出除く)を品目別に見ると、まず全体の約3割を占める電子製品は同3.8%増(前月:同4.9%減)と1年5ヵ月ぶりのプラスに転じた(図表12)。電子製品の内訳を見ると、PC(同18.2%減)、通信機器(同31.5%減)こそ減少しているものの、PC部品(同30.9%増)やIC(同10.9%増)、ダイオード・トランジスタ(同2.6%増)は増加している。また電子製品と同じく全体の約3割を占める化学製品は同24.1%増(前月:同24.3%減)と、大幅に上昇して2ヵ月ぶりのプラスとなった。化学製品の内訳を見ると、医薬品が同45.2%増(前月:同46.4%減)、石油化学製品が同14.2%増(前月:同6.0%減)と、それぞれ大幅に増加した。さらに、その他製品も同10.0%増(前月:同5.0%減)と大きく上昇した。
フィリピン の16年11月の輸出額は前年同月比7.5%減と、前月の同7.6%増から低下した。輸出額は16年から緩やかな持ち直しの動きが続いてきたが、足元では息切れ感が出ているほか、前年同月の水準が高かったことから伸び率は3ヵ月ぶりのマイナスに転じた。一方、輸入額は前年同月比19.7%増と、前月の同5.9%増から上昇した。結果、貿易収支は25.7億ドルの赤字と、前月から5.8億ドル赤字が拡大した(図表13)。
輸出シェア上位10品目を見ると、まず輸出全体の約5割を占める電子製品は同7.9%減(前月:同4.9%増)から上昇した(図表14)。電子製品の内訳を見ると、電子データ処理機(同5.6%減)と半導体デバイス(同9.7%減)がそれぞれマイナスに転じたほか、オフィス機器(同38.2%減)も減少傾向が続いた。その他9品目を見ると、ココナツ油(同44.0%増)とその他鉱産物(同39.0%増)、その他製造品(同3.0%増)が増加した一方、木工品・家具(同28.9%減)と化学(同26.2%減)、イグニッション・ワイヤーセット(同25.6%減)、機械・輸送用機器(同25.4%減)、アパレル(同7.6%減)、金属部品(同2.0%減)が減少した。
(参考)仕向け地別の輸出動向
斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部
研究員
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