2017年展望,日本株,リカードの仮設,三菱UFJモルガン・スタンレー証券
(写真=ZUU online)

1990年代、ロンドンで6年間のセールス・ディーラーを経て、現在は地方金融機関中心に市況見通しや投資戦略をコンサルティングしている折見世記氏。同氏は2016年をどのような年だったと振り返るのか、また2017年はどのような年になると見ているのか。
(聞き手:ZUU online編集部 菅野 陽平)
※インタビューは2017年1月11日に行われました。

外部環境と外国人投資家の動向に左右された日本株

——折見さんは日本株がご専門ですが、2016年を振り返ると、どのような印象でしたか。

結果的にはV字型の形でしたね。まずは2015年12月に、米国の利上げが始まりまして、順調にいけば2016年は4回利上げするという予想が多かったわけです。しかし、グローバルな景気循環後退と重なり、急速な金融引き締めリスクが懸念されてリスクオフの展開となりました。日本株に関しては、外国人投資家が大幅に売り越していったということだと思います。

——資産価格のボラティリティが大きい1年でしたね。

ボラティリティが大きかったという意味でも、ひとつ大事なポイントが原油価格でした。2015年から下落基調だったのですが、特に2016年に入って、2月くらいまで原油価格が急落しました。しかし2016年末には底値から約2倍の水準まで上昇しましたよね。この原油価格のボラティリティが、株式市場にも大きな影響を与えたと考えています。

2016年前半の日本株は、外国人投資家の売り越しが大きかったわけですが、では外国投資家のうち誰が売ったのか。ご存知の通り株式の売買は先物と現物に分かれますが、先物に関してはおそらくヘッジファンドを中心でしょう。一方、現物株を見ると、ほとんどがヨーロッパ勢、特にイギリス勢が売っています。これは日銀のデータで確認できます。

——イギリス勢の株式売り越しと原油価格がどのように関係しているのでしょうか。

あまり知られていないかもしれないですが、サウジアラビアなどの中東勢は、運用先をイギリスのファンドに委託しているケースが多い。原油価格急落によって中東勢の財政が厳しくなり、資金を手当するため委託先のイギリスファンドに売り注文を出した、と予想されます。

2月をボトムに原油価格は反発したわけですが、夏頃から株価も持ち直しています。確認可能な直近のデータを見てもイギリス勢の買い越しが増えていますので、いったん中東勢が売却した資金を買い戻しているんじゃないかと。あくまでも推測に過ぎないのですが、そのような背景があるのではないかと考えています。

——外部環境や外国人投資家の動向に左右されたわけですね。

経済の環境からすると、景気減速が年央からやや持ち直しの動きになったということ。またBrexitと米国大統領選挙というふたつのイベントを通過して、思っていたほど悪い状況にはなっていないという安心感。そのなかで原油価格が持ち直していったというのが、日本株がV字形になった要因だと思います。

日本株はレンジ内で推移か

——2017年の日本株の見通しについてはどのようにお考えでしょうか。

去年だけ見るとV字形になっていますけど、その前から見ると大勢としてボックス相場なんですよね。レンジはかなり広いですけれども、そういった意味では、長い目で見たときのボックス相場は今年も続くのではないかと考えています。

日経平均の水準としては、大体1万7500円くらいから2万1500円くらいまでのレンジ。年前半に底をつけて、年後半に上昇していくイメージを持っています。

2017年度の企業業績は若干の増益予想、PERは14.8倍をフェアバリューとして大体プラスマイナス2(13〜17倍)のレンジで推移するのではないかと考えています。企業収益は為替によって大分変わってきますが、今年のドル円の想定為替レートは一番高いところで108円くらい、一番低いところで123円くらいと見ています。

——年前半を軟調と予想している理由は何でしょうか。

アメリカの動向が影響すると考えています。トランプさんの政策、いわゆるトランポノミクスの大きな柱は金融規制緩和、インフラ投資、減税の3つだと思うんですけども、リスクと私が感じているのは、まだ大統領に就任していない段階からトランプさんの言動で企業とマーケットがかなり左右させられているということですね。

実際にトランプさんが大統領になって、まずは議会と折り合いをつけて、彼が想定している予算の何割くらいが投入できるのか。共和党はどちらかというと小さな政府を標榜しておりますので、その予算の話し合いはかなり難航するのではないかと考えています。特にインフラ投資に関しては、トランプさんが目一杯アクセルを踏むことができないんじゃないかと思っています。

——大型減税に関してはどうでしょうか。

私はトランポノミクスのなかで、減税はそこそこ大規模にやってくると思っています。いずれにしてもアメリカの財政赤字は膨らむ形になりますが、面白いことに財政赤字が膨らむと、アメリカの家計貯蓄は増える傾向にあります。過去のデータを見ると、アメリカの財政赤字と、アメリカの家計貯蓄残高はきれいに逆相関しています。

この動きはリカードという経済学者が提唱した「リカードの仮説」と呼ばれています。財政赤字が膨らむ国が、いくら経済政策で減税や現金給付しても、いずれ増税されるだろうと人々が感じ、家計は身構えてしまう(消費を抑えて家計貯蓄残高を増やす)という仮説です。

従ってトランプ政権が大判振る舞いしても、富裕層だろうが限界消費性向(所得の増加分のうち消費が増える割合)の高い人だろうが、貯蓄を増やすということは、その分の消費創出効果、需要創出効果が生まれません。従って、ふたを開けてみると、財政赤字が膨らんだだけであまり期待した効果は出ない可能性もあります。

——トランポノミクスは実行できたとしても、あまり効果がでない可能性があると?

今はハネムーン期間で、いい部分しか見えてないと思うんですけど、まずは予算がどれくらいの形で投入されるのか。あるいはそれがある程度の予算を取って打たれた際に、どれくらいの効果が出てくるのか。今年のどこかで、「トランポノミクスって期待していたほどではないな」というがっかり感が出てくるのではないかなと思います。

ただ、強烈なアクセルは踏まないにしろ、巡行速度のアメリカ経済のなかで財政政策を行うわけですから、急激な金利上昇が住宅投資や設備投資を抑えなければ、そこそこの経済成長というのが年後半に見えてくると思います。年前半に弱含んだ部分は持ち直した形になると思います。

アメリカの動きが、「年前半は落ち込んで年後半に上昇」という日本株の見通しにも結びついてくるわけです。2016年は原油価格が日本株に大きな影響を与えたと分析していますが、2017年はトランプ氏の動向を注目する必要がありそうです。

折見 世記(おりみ・せいき) 1986年、第一證券入社。6年間のロンドン駐在を経てリサーチセンター配属。つばさ証券投資情報部(チーフ・ストラテジスト)、UFJつばさ証券投資情報(チーフ・ストラテジスト)、三菱UFJ証券投資情報部(シニア投資ストラテジスト)を経て、2010年5月より現職の三菱UFJモルガン・スタンレー証券投資情報部(シニア投資ストラテジスト)。ユーロマネー(Jマネー)等に執筆掲載、セミナー等講師多数。

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