クロス取引,株主優待,逆日歩
(写真=PIXTA)

これから訪れる企業の決算シーズンに向けて、過熱化が予想されるのが「株主優待」の争奪戦だ。中でも、企業が株主優待で提供する商品などを低コストで獲得する手法として「クロス取引(両建て)」が注目を集めている。ところがこのクロス取引で思わぬ落とし穴にはまり、結果的に高い代償を支払うケースも少なくないという。こうした失敗に陥らないためにはどうすべきかを考えていこう。

株価下落の影響を抑えるクロス取引が過熱化へ

株主優待は、企業が株主への還元策として実施しているもので、そのメリットは何といっても企業の自社商品やサービスがお得に提供されるところだ。個人投資家に対し自社株の魅力アピールする手段として、多くの上場企業が多彩な株主優待の特典を用意している。

ただ株主優待狙いの投資で注意が必要なのは、権利確定日・翌日の「権利落ち」により株価が下落する恐れがある点だ。こうしたリスクを避けることができるとして、「クロス取引」が注目されてきた。

クロス取引は、現物で企業の株を買い、信用取引によりその株を売る投資テクニックだ。この手法を利用すると、株価下落の影響を受けずに売買手数料を支払うだけで株主優待の権利を受け取ることができる。しかし現在、株主優待を獲得するためのクロス取引が過熱化してしまったため、新たなリスクが生まれているのだ。

信用売り銘柄の不足で発生するレンタル料が「逆日歩」

では、クロス取引について、さらに解説を進めよう。クロス取引は、特定銘柄の同一株数を、買い注文・売り注文を同時に発注して成立させる取引で、権利付き最終日に株を持っていれば株主優待を受けることができる。

そしてクロス取引で生じるリスクとは、「逆日歩」の発生によるものだと一般に広く知られている。逆日歩は、制度信用取引で売りが多過ぎたときに生じるもので、信用売りの銘柄が不足すると発生する”レンタル料”と捉えると理解しやすい。取引のケースによっては、株主優待の換算金額を超える逆日歩が生じる場合もあるのだ。多くの投資家が、人気の優待銘柄を一斉に空売りすると、こうした逆日歩の悲劇が生まれる。

過去には、3万円のポテチ、1杯600円の牛丼が誕生

SNS上で過去に話題になったクロス取引の失敗事例をみてみよう。

まずはポテトチップにファンが多い湖池屋 <2226> の株主優待を利用し、1000円相当のお菓子詰め合わせを獲得しようとしたケースだ。

(1)権利付き最終日に湖池屋の現物株100株を持ち越し、同時に湖池屋株(同株数)を100株空売りした
(2)空売りを現物株で返済するクロス取引(両建て)により株主優待を得る
(3)ところが多くの優待ねらいの投資家が同社株を大量に空売りを行う状況となっていた
(4)その結果、過度な株不足となり、5日で320円の「逆日歩」が発生する
(5)100株のクロス取引は当初、実質0円で優待を獲得したはずだったが100株×320円(逆日歩)により、3万2千円の支払いが必要になる

つまり、1000円相当だったお菓子詰め合わせが、3万2000円の高級ポテトチップに化けるという、笑うに笑えない事態に陥ってしまったのだ。

さらにもう一つ、優待ねらいのクロス取引の悲劇として有名な、吉野家ホールディングス <9861> での事例も紹介しよう。

3000円相当のサービス券が得られる吉野家の株主優待を受けるため、権利付き最終日に吉野家現物株(1単元)を持ち越し、同時に、同株数を空売り(クロス取引)をしたとのこと。これにより株価変動リスクなしで株主優待を獲得したはずが、大量の空売りが入ったことで逆日歩(3日で6000円)が発生し、1株実質0円で株主優待を得るどころか6000円を支払うはめになった。3000円相当のサービス券を手に入れるのに6000円掛かった計算なので、結果的には一杯300円程度の牛丼が2倍の600円になった計算だ。

上記2つの失敗例をみて分かるように、クロス取引を行う場合、人気の高い優待銘柄などは、想定を大きく超える逆日歩が突然に発生する場合があるため、用心が必要だ。近年、一部のネット証券が提供する優待検索サービスの利便性が向上したこともあり、信用売りができる銘柄を探すことが容易になったという背景もある。

このため信用取引の売残と買残を確かめて、また過去の逆日歩を調べるなどして、逆日歩が生まれにくい銘柄を選択するようにしたい。さらに、逆日歩の最大金額を事前に計算して、逆日歩分をマイナスしても株主優待を受けるメリットがある銘柄を選ぶとよいだろう。

そして、信用取引には制度信用取引以外に、逆日歩が発生しない「一般信用取引」などもある。ただ一般信用取引は、空売りが可能な優待銘柄、取り扱い証券会社が限られているため、自身のニーズにあわせて検討することが大切だ。

必要経費も念頭に 美味しい話は「ほどほど」に

前述の通りクロス取引は信用取引だが、始める前に理解しておきたい基礎知識をあげておこう。まず信用口座を開設しなければならず、担保になる代用有価証券や現金を用意する必要がある。また制度信用銘柄など以外では、クロス取引ができない銘柄もあるという点も知っておきたいポイントだ。

以上のように、「実質0円で優待ゲット」などと、おいしい話に踊らされてしまうと、後で手痛いしっぺ返しの危険性もあるのがクロス取引の実情だ。例えば小遣い稼ぎで、クロス取引により株主優待の商品を大量に入手して、それをネットオークションで転売しようという話もよく聞く。だが、このような「ささやかな野望」は、想像以上にリスキーだという点をよく心得ておきたいものだ。

ターゲットにした優待銘柄を事前によく調べ、節度を持って投資を行うのが、株主優待を賢く有意義に楽しむコツといえるのではないだろうか。(ZUU online 編集部)

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