はじめに

アジア各国では、保険市場の成長を背景に保険会社による不動産投資の拡大が続いている(1)。中国経済の失速懸念などから、アジア域内の不動産取引は縮小傾向にあるが、一部の保険会社は、アジア域外への積極投資によって不動産投資の拡大を継続している。今回、アジアの保険会社による海外不動産投資の概要を確認する。

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1)増宮 守、「 【アジア・新興国】不動産投資家として存在感を増すアジアの保険会社~台湾、韓国に続き、中国本土の保険会社も不動産投資を本格化~ 」 ニッセイ基礎研究所、基礎研レター2016/8/30
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アジアの保険会社による不動産投資の拡大

近年、アジアの保険会社による不動産投資の拡大は目覚しく、例えば、台湾最大手の国泰人寿保険(キャセイライフ)が、日本生命保険を上回ってアジアの保険会社で最大の不動産投資家となった他、中国本土の大手保険会社も、積極的な不動産投資の拡大によって注目を集めている(図表-1)。

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アジアの保険会社による不動産投資の拡大は、新興国、NIEs4カ国を問わず、各国で続く保険市場の高成長を背景としている(図表-2)。多くの保険会社が、保険事業および運用資産規模の拡大に沿って不動産投資を拡大してきたといえる。

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日本、台湾、韓国の保険会社による海外不動産投資

アジアの保険会社の中でも、特に台湾や韓国の保険会社は不動産投資に積極的であり、総資産における不動産の比率が日本の保険会社の数値を大きく上回っている(図表-1)。台湾や韓国の大手保険会社は、中国経済への懸念から国内の不動産取引が縮小する中でも、海外への積極投資によって不動産投資を拡大してきた。

実際、日本、台湾、韓国の主要な保険会社について、リーマンショック以降の海外不動産投資の事例をみると(図表-3)、日本と台湾および韓国の保険会社で明確なスタンスの違いがみられる。日本の保険会社による近年の海外不動産投資事例は、東京海上日動火災保険がシンガポールで自社使用するオフィスビルを取得した1件のみであった2。一方、台湾、韓国の保険会社は、投資目的の海外不動産投資を継続的に実施している。

台湾の保険会社は、例外的な中国本土での事例を除けば、全て欧州のオフィスビルに投資しており、特にロンドンのオフィスビルに集中している。また、台湾の保険会社は単独出資を選好し、最大手の国泰人寿保険(キャセイライフ)が大規模オフィスビルに投資している以外は、概して投資対象の規模を抑えている。

一方、韓国の保険会社は、北米に積極的に投資しており、欧州でもロンドンに限らず南欧にも投資している。また、JV等で他の投資家と共同出資し、案件あたりの出資額を抑えることで、超高層ビルや大規模ビルを主な投資対象としている。中には、ライバルの保険会社と共にJVに参加するケースもみられている。

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中国本土の保険会社による海外不動産投資

最近では、中国本土の保険会社も、海外不動産投資を積極化している。中国本土では、規制緩和による不動産投資解禁以降の年月が浅く、依然として総資産に対する不動産の比率が低い(図表-1)。そのため、保険会社の不動産投資拡大の余地は大きく、国内に止まらず、海外でも積極的に投資機会を追求している。

実際、中国本土の保険会社による海外不動産投資の事例をみると(図表-4)、最大手の中国平安保険や中国人寿保険が揃って積極的に海外不動産投資を進めている。加えて、3番手以下の保険会社も海外不動産投資を進めており、中国本土の保険会社による海外不動産投資は、台湾や韓国に比べても裾野が広く、今後の広がりも大きいとみられる。

また、中国本土の保険会社では、2014年の中国人寿保険によるロンドンのオフィスビル、カナリーワーフタワー (7億9千5百万英ポンド) の取得(70%持分)や、2015年の中国安邦保険によるニューヨークの高級ホテル、ウォルドーフ・アストリア・ニューヨーク(19億5千万米ドル)の取得、さらには2016年の中国人寿保険によるニューヨーク・マンハッタンのオフィスタワー(16億5千万米ドル、RXRと共同出資)の取得等、台湾、韓国の保険会社の事例をはるかに上回る、世界的にも巨大な取得事例がみられている。

加えて、中国本土の保険会社では、子会社などを通じて海外で不動産開発に乗り出すケースもみられる。特に、中国平安保険は不動産開発に積極的で、複数の開発案件に投資している。中でも、シドニー中心部で現地のレンドリースと日本の三菱地所と共同し、超高層のオフィス商業複合施設を再開発する計画では、全体の5割を出資しており、新たなシドニーのランドマークビルの開発を主体的に手掛ける立場となっている。

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おわりに

このように、不動産投資の拡大を続けるアジアの保険会社は、海外の不動産にも積極的に投資している。また、各国の保険会社の動向には特徴がみられ、特に中国本土の保険会社については、世界的にも大規模な取得事例が多く、開発案件にも積極的に取り組むなど、その動向が注目される。

不動産投資市場全体でみると、これまでアジアの投資家では、GIC(シンガポール政府投資公社)やCIC(中国投資有限責任公司)などの外貨準備の運用機関や各国の年金基金といったSWF(ソブリンウェルスファンド)が知られてきた。主にSWFの運用資産の拡大に伴い、アジアの投資家によるアジア域外での不動産投資額は、年々大きく増加してきた(図表-5)。

中国本土などのアジアの保険会社は、SWFに追随する形で投資家としての存在感を高め、世界の不動産投資市場において主要プレイヤーとしての役割を担いつつある。

日本国内では、これまでアジアの保険会社による不動産投資は本格化していない。しかし、投資に向けたリサーチは進められており、今後、日本国内でもアジアの保険会社による取得事例が増加し、主要な不動産投資家の一角を占める可能性は小さくないと考えられる。

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増宮守(ますみや まもる)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 主任研究員

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