セクハラ,性差別
(写真= Paul Aiken /Shutterstock.com)

英国の職場で「女性従業員のドレスコード(服装)改革」が起こり始めている。英議会は「企業が女性であることを強調する服装を従業員に強制することは、平等法(Equality Act 2010)に違反する性差別」と見なし、新たな法的フレームワークを検討中だ。また一部では「労働安全衛生法に反する」との指摘も挙がっている。

スカート、ハイヒール、メークが会社の服装規定

女性従業員の服装規定は各国、各企業によって様々だ。日本では男女ともに清潔感や効率性が最優先事項となるのだろうが、英国ではスカート、ハイヒール、メイクを身だしなみの一部として女性従業員に義務づけている企業が珍しくない。

これらの企業ではハイヒールは高いほどよく、ナチュラルよりもフルメークが「身だしなみに気をつけている」との評価をうける。特に営業職や秘書など人と接する機会の多い職であればあれほど、規定のハードルが高くなる傾向が強い。

しかしいくら仕事と割り切ろうとしても、女性側の立場からは「冬場はスカートだと冷える」「一日中ハイヒールは足が疲れる」「毎日メイクで肌が荒れる」というのが本音である。

さらには「化粧直しをこまめにしろ」「メークが下手だ」といった細かいプレッシャーから、「露出の多い服を着ろ」「髪の毛を金髪に染めろ」などという、明らかに個人的な趣向を剥き出しにした要求まで報告されている。

こうした腑に落ちない服装規定が女性の健康を害しているだけではなく、男性従業員による性的な嫌がらせ、つまりセクハラを加速させているという非難が議会に持ちこまれ、ついに法の出番となったわけだ。

スーツを着ている=デキる社員の先入観はナンセンス?

そもそも服装規定を設ける目的は何なのか。服装や髪型が「表現の自由」であるのは英国も同じだ。しかし雇用側には社風や社会評価、業務内容などを考慮にいれ、従業員の装いや振る舞いに一定の制限を課す法的権利が与えられている。いわば「校則」の社会人版だ。

米国同様、英国でも90年代以降は徐々に職場のカジュアル化が始まり、ジーンズやスニーカーで勤務できる企業も増えてはいるものの、業種や規模によって大きな偏りが見られる。かたくなに既存のイメージに拘る企業も多い。

服装規定を設けている企業側の意見としては、「服装規定は社会人として身だしなみを整えるための指導」といった基本的なものから、「キャリアを築くために服装から気合をいれることが重要」「プロとしての自覚を促す」など育成教育を意図したもの、あるいは「会社の品位が従業員の服装に反映される」という社会的評価を維持するためのものまで実に様々だ。

しかし時代とともに人々の受けとめ方も変化しており、「服装にこだわらなくても十分に実力は発揮できる」「スーツを着ているから仕事ができるという先入観はナンセンス」という声が若い世代を中心に広がっている。

「ハイヒールを履かないなら出社するな」と帰宅を命じられた派遣社員

こうした労働側の意識改革に加え、男女間の雇用差別やセクハラ問題などが複雑に絡み合い、「ドレスコード改革」を英企業社会に持ちこんだものかと思われる。

「なぜ女性従業員だけに、こうした不条理な義務を課せられているのか?」という女性従業員たちの疑問と不満が、具体的に表面化したのは2011年前後と記憶している。当時第1次キャメロン内閣で女性・平等担当大臣を務めていたテリーザ・メイ首相は、こうした訴えを「性別によって異なる伝統的な服装規定が、(自分の)所管大臣としての職務の足かせになったことはない」とあっさり退けた。

しかし2015年12月、派遣会社の斡旋で国際プロフェッショナルサービス企業、プライス・ウォーターハウス・クーパース(PwC)のロンドンオフィスで臨時フロント係として勤務する予定だった二コラ・ソープさん(当時27歳)が、自らの体験談をSNSに投稿したのをきっかけに法律の介入を求める署名運動が始まった。

ローヒールを履いてPwC出社したソープさんは、上司から近所の店でハイヒールを購入し履き替えるよう要求された。不当な要求として最後まで同意しなかったはソープさんは、「規則違反」との理由で帰宅を命じられたのだ。

この腑に落ちない経験談に共感した1万人を超える女性が、「職場でのハイヒール強制廃止」に向けて立ち上がった。

健康に悪影響で時代遅れの服装規定は労働安全衛生法違反?

スカート、ハイヒール、メークなどは女性を美しく飾るためのツールとして定着しているが、けっして健康によいものでないことは周知の事実だ。長時間、連日となるとなおさら長期的な身体への悪影響が懸念される。

ソープさんがハイヒール着用を拒んだ理由もそこにある。後日PwCは「2インチから4インチのヒール着用」という規定は、女性が登録していた人材派遣会社の規定であるとのコメントとともに、服装規定による性差別の実態を否定している。

どこの企業の規定であろうと、悪影響の可能性を認識しているにも関わらず規定遵守を強要するのであれば、「立派な労働安全衛生法違反行為に値する」という批判がでるのも当然だ。

何百件という性差別的な服装規定の報告書が議会に殺到

もうひとつの焦点は英国ではびこるセクハラ問題だ。英労働組合会議(TUC)が昨年実施した調査から、18歳から24歳の女性の約3分の1が職場でセクハラの被害にあった経験があることなどが判明している。

「女性であることを強調する」服装規定がセクハラを後押ししているかどうかは立証されていないが、議会には何百件という性差別的な服装規定の報告書が女性従業員から提出されている。

「フォーマルな服装にはハイヒールやメークが欠かせないという発想自体が時代遅れ」という言葉が表しているように、ソープさんを始めとする多くの女性が問題視しているのは、企業の服装規定自体ではなくその内容である。

因みに一部の男性からは「スーツや長髪、髭もOKにして欲しい」との意見がでているが、こちらは身体への悪影響やセクハラとの関連性が薄いことから、議会で取りあげられる可能性は薄いだろう。(アレン・琴子、英国の在住フリーライター)