ヤマト,再配達,残業代
物流ビル(写真=PIXTA)

ヤマトホールディングス <9064> が子会社であるヤマト運輸の社員等最大7万6000人を対象に、未払い残業代を支給する為の調査に乗り出したと2017年3月4日に複数の報道機関が報じた。支払規模は数百億円に上る可能性も指摘されており、業績への影響も小さくない。

日本経済新聞は3月7日、ヤマト運輸が9月末までに宅配便の基本運賃を引き上げる方針を固めたと報じた。同社の長尾裕社長が日本経済新聞の取材で明らかにしたという。消費増税時を除くと全面値上げは27年ぶりとのことだ。

市場は業績悪化を嫌気

ヤマト運輸は昨年、神奈川県内の事業所で残業代の未払いがあったとして、労働基準監督署からの是正勧告を受けている。今回は自主的な調査のようであるが、最大で過去2年分の調査となり、人数もグループ全体の4割に当たる7万6000人が対象となる為、業績への影響が懸念される。

ヤマトHDの2017年3月期の連結営業利益は会社予想で580億円となっており、数百億円規模の支払いが生じた場合の影響は非常に大きなものとなる。ヤマトHDの株価は2017年3月6日に前日比102円安の2441円と4%を超える下落を記録した。

今回の問題は一時的に残業代を支払って終わる問題では無いと見られる。アマゾンジャパンなどのインターネット通販の拡大を受け、宅配便の取扱量は増加の一途をたどっている。

一方で、配送会社は配送料の値上げが受け入れられず、現場では長時間労働やサービス残業の増加が指摘されていた。仮に残業代の未払いによって人件費のコストを削ってきたのであれば、今後人件費の増加を価格に転嫁できるかが焦点となる。

ヤマトHDは今回の報道に関して、プレスリリースで「当社からの発表に基づいたものではなく、現在調査中である」と公表している。ヤマトHDからの正式なリリースによって、問題の規模や今後の方針が分かる事となる為、発表が待たれる。

岐路に立たされているヤマトHD

ヤマトHDの置かれている状況は非常に厳しい。同社の決算資料によると2016年3月期の国内宅急便総数は約17億3千万個、宅急便単価は578円となっている。3年前の2013年3月期の決算発表では国内宅急便総数は約14億9千万個、宅急便単価は591円となっており、国内宅急便総数は約116%の増加に対し、単価は約2%の下落となっている。現場の繁忙を価格に乗せられていない構図は決算資料からも読み取れる。2017年3月期は国内宅急便個数が約18億7千万個、宅急便単価が556円と予想されており、一段の個数の増加と単価の下落が見込まれる。

佐川急便を傘下に置くSGホールディングスの決算はヤマトHDと対照的である。同社決算資料によると、2016年3月期決算は宅配便個数が約11億個、宅配便単価は509円となっており、2013年3月期の数字と比較して、宅配便個数は約18%の下落、単価は約10%の上昇となっている。同社は2013年にアマゾンジャパンとの契約を打ち切っており、個数は減少したものの、単価の上昇には成功した。2016年3月期の営業利益率はヤマトHDの4.8%に対して、5.7%となっている。

ヤマトHDは労働組合から宅急便荷受量の総量抑制を求められている事もニュースになった。また、一部時間帯配送の廃止も検討されており、従来のサービスからの改革が議論されている。宅配便個数の増加が続く中、ヤマトHDの売りであった、きめ細やかなサービスは限界を迎えている。アマゾンジャパンなどの大口顧客に対し、価格を含めた配送条件の見直し交渉が必要になると見られ、その結果次第でヤマトHDの市場評価が決まる。(ZUU online編集部)

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