在日中国人研修生の日本生活は牛馬のようではないのか?日本でも中国人研修生の受けているプレッシャー、虐待、性的嫌がらせなどが報道された。失踪した研修生は1万人に達しているという。これを受け中国大使館領事部は2月26日、研修生を保護する旨の声明を発している。そんな中、官製メディア「新華網」は新たに特集を掲載した。広島県の研修生を取材した記事である。以下紹介しつつ、その掲載意図を探ってみよう。

広島の縫製工場工員

(写真= PR Image Factory /Shutterstock.com ※画像はイメージ )
(写真= PR Image Factory /Shutterstock.com ※画像はイメージ )

取材した縫製工場は新幹線の広島駅から18km、典型的な日本の農村風景で人影はほとんど見られない。工場と工員宿舎は近接している。宿舎は4個のコンテナを改装し積み上げた簡素なもので、冬は寒く夏は蒸し風呂だ。ここに約20~30人が詰め込まれ、トイレは1つしかない。日本では廃コンテナなど5~8万円で買える。それなのに社長は一人当たり2万円の家賃を徴収し、年間700万円近い利益を上げている。電気、ガス、水道代も一人当たり1万円も徴収される。一方今や必須のインフラとなったWi-Fiはない。このコンテナ宿舎の暮らしぶりは写真を多用して強調されている。

江蘇省出身36歳の女性・張さんはここへ来て半年になる。以前は中国の縫製工場で働き、月収は3000~4000元だった。友人から日本へ研修生としていった方が稼げると聞き、仲介業者に依頼した。今は日本円13~14万円(7000~8000元)の月収である。

これは中国の工場労働者よりかなり高い。しかし日本の物価は高く植物油が150円、中国で15円のさつまいもが200円もする。果物はさらに高い。食糧費に月3~4万円は必要だ。そうすると3年間日本で働いた後の利益は15~16万元という計算になり、これでは中国の縫製工場で働くのと大差ない。

広島の建設労働者

記者は続いて広島県西部の建設会社へ赴き、江蘇省出身の30歳、邱さんを取材した。中国内では建設工のリーダーとして月収は8000~9000元だった。しかし今は鉄筋を扱う一労働者でしかない。日本へ来て3年になるが、稼いだ利益は約10万元である。勤務は8時~17時までだが、8時とは現場への到着時間である。休日はほとんどない。昼は弁当で、加熱した食物を食べられないのがつらい。日本へ来て5~6キロ痩せた。現在は家賃3万円、厚生年金2万円を引かれて手取り11万円の月収である。

組合はあっても外国人研修生の言うことに耳を傾けてはくれない。そして同じ仕事内容でも日本人の賃金ははるかに高い。研修生の作業服が破れ、雨靴に穴があいても交換には応じてくれることはない。

また彼は、今後日本へ来る中国人研修生のほとんどは後悔することになるだろうとも述べている。

研修生たちの心理は複雑である。縫製工場の研修生は自分たちがいなければ、工場は閉鎖せざるを得ないという自負を持つ。一方仲介業者への手数料支払いへの不安もある。また3年も日本へ行って稼ぎが少なければ郷里への面子が立たない。

日本との問題は残しておきたい中国

日本法務省によると2015年12月末の外国人技能研修生は19万2655人、そのうち中国人は8万9086人、全体の46.2%を占める。近く日本政府は1981年から続けてきたこの研修生制度に変更を加える予定だ。その前に“悲惨な中国人研修生の状況”を強調し、中国政府はちゃんと日本政府にプレッシャーをかけている、という構図にしておきたいのだろう。

中国の賃金は上昇し、日中の経済格差は縮小、わざわざ日本へ出稼ぎにくるメリットはなくなっている。それも記事の強調するポイントだ。ただし日本側が人手確保のため、研修生の待遇改善に努めるとすれば話は違ってくる。これからはその綱引きが展開されるだろう。新しい時代が訪れる。

現在中国は、迎撃ミサイル配備問題による韓国たたきに忙しい。北朝鮮や米トランプ政権も悩みのタネである。現状日本とは小康状態にある。しかし中国政府が黙っていると国民はどんどん日本へ旅行して、次々にその好印象をネットに発信してしまう。日本へプレッシャーをかけるネタは常に確保しておきたい、ということかもしれない。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)