悩み,相談
(写真= nd3000 /Shutterstock.com)

あなたは仕事の悩みを誰に相談するだろうか?

厚生労働省の労働安全衛生調査によると、「仕事や職業生活での不安、悩み、ストレスを相談できる人がいる」との回答が84.6%(複数回答)。このうち、相談相手として最も多かったのは家族・友人の83.1%、次いで上司・同僚の77.9%だそうだ。

一方で、同調査では、実際に相談した人のうち、ストレスが解消された割合はわずか31.1%に過ぎないという結果も発表されている。家族や友人、上司や同僚といった身近な人は相談しやすいが、悩みやストレスの解消にはあまり適していないことがよく分かる統計だろう。

実際、カウンセリングに来られる方も、友人や同僚など身近な人に相談したが問題が解消されず、心を病んでしまったケースが非常に多い。

力になりたい気持ちが「あだ」となる?

なぜ家族や友人は相談相手に向いていないのか。利害関係が生じるケースや、相手の愚痴を聞かされるリスクがあることもその理由だが、私は身近な人だからこそ生じてしまう心理に原因があると思う。

相談される側の自分をイメージして欲しい。大切な部下から、仕事で抱えている悩みやストレスを打ち明けられたら、「何とかして力になりたい」と思うのが自然な反応だろう。

だが、この感情が相談を受ける側から冷静さを奪う。共に怒り、共に泣く。期待を込めて部下を励まし、時に自分の経験からアドバイスを与える。一見良い関わり方に思えるかもしれないが、これは部下と一緒に迷路で迷子になっているようなもの。悩みの全体像も、部下の気持ちも見えない。

ただ助けたいという自分の気持ちばかりを満たしているに過ぎないのだ。アドバイスが当たれば解決するが、それはたまたまである。大抵は、溜め込んでいた悩みを話せた分、少し気分が楽になるだけ。悩みは解消などしない。

カウンセラーが「悩みを聴くプロ」であるのは、クライエントの悩みを自分事のように聴きながら、頭では他人事として問題点や改善へのプロセスを冷静に考えられるからである。迷路で例えるなら、迷路で迷っているクライエントの心情を受け止めながら、迷路の俯瞰図を頭の中で描くイメージである。

友人・家族などから相談を受けて冷静でいるのは、経験を積んだカウンセラーでも難しいもの。傾聴をしっかりと身につけていない人では、分かっていても冷静ではいられないだろう。この点こそ、身近な人間が相談相手として適任ではない大きな理由である。

友人に相談する前にすべきこと

人が相談をして得たいものは、悩みを受容される安心感と、現実的な解決策の2つだろう。これらを同時に満たすには、やはりその道のプロが一番だろう。メンタル、税、法律、資産運用……どんな悩みにも、それぞれに専門家はいる。彼らは一般の人が持たない豊富な知識と経験で、落ち着いて悩みを受け止め、的確なアドバイスをしてくれる。多少の費用がかかったとしても、悩みを抱えたまま時間だけが過ぎていくよりは良いはずだ。

だがどうしても友人など身近な人を選ぶのであれば、相談相手に対し今自分は何を望むのかを整理してから相談するべきである。気持ちを聞いて欲しいだけなのか、自分とは違う視点が欲しいのか。それとも打開案や役立つ専門的な情報が欲しいのか。

相手に高望みをせず、どれか一つに絞り、残りの二つは求めない。そう決めた上で、それに相応しい相手に相談すれば、ある程度は満足できるはずだ。アドバイスは的外れだが聞き上手な人や、人の話はあまり聞かないがユニークな考え方を持つ人など、望むもの一つであれば満たしてくれる相手なら、身近にもいるだろう。

相談相手は信頼よりも○○で選ぶ

これを必要な時にスムーズに行うために、私は、日頃元気なうちに上司や友人を役割分担しておく事をお勧めしている。すぐに連絡を取れる人を対象に、話をただ聞いて欲しい時はAさんとBさん。人間関係についてのアドバイスをもらうのはCさんとDさん、部下育成の悩みはEさんとFさんといった具合に、相手の長所を考え、数名ずつ選んでおこう。メモに残しておくと尚良い。悩んでいる時は判断力も落ちるもの。メモをみて選ぶだけにしておけば安心だろう。

深刻な悩みほど、付き合いの長さや深さからくる信頼感を元に、身近な人を選んでしまいがちだが、これからは相手の性格や適性をみて、その時の自分のニーズに合わせて決めてみてはいかがだろうか。(藤田大介、 DF心理相談所 代表心理カウンセラー)