三菱商事,三井物産
(写真=PIXTA)

日本企業を代表する総合商社の三菱商事 <8058> と三井物産 <8031> が、国際市況の低迷から巨額の減損処理を行ない、創業来初の赤字転落になる見通しを発表してから約1年が経とうとしている。その後、総合商社を取り巻く環境はどう変わったのか振り返りたい。

「物産ショック」総合商社が売られる

三井物産が巨額の減損を発表したのが、16年3月期末も差し迫った16年3月23日だった。16年3月期の連結最終損益の見通しを、今までの1900億円の黒字予想から700億円の赤字予想に大幅な下方修正をした。

国際商品市況の低迷から、資源事業の減損計上が必要になったためだ。減損は、チリの銅事業の1150億円を筆頭に、豪州でのLNG事業や石炭事業、ブラジルのニッケル事業などトータルで2600億円を見込んだ。翌24日の同社の株価は売り気配で始まり、105.5円安(7.5%)の1299.5円で引けた。

「物産ショック」で同日の総合商社株は連れ安、丸紅 <8002> は4.7%安、三菱商事 <8058> は4.1%安、住友商事 <8053> は3.9%安、伊藤忠 <8001> は2.7%安と大きく売られた。減損するのは物産だけではないだろうとの連想だった。

翌24日には、市場の予想通り、三菱商事 <8058> が16年3月期の連結最終損益を3000億円の黒字予想から1500億円の赤字予想に下方修正した。減損額は三井物産を上回る4300億円規模に達した。三井物産と同様にチリの銅事業や、豪州のLNG事業などの減損の計上を発表した。

総合商社は、決算に国際財務報告基準(IFRS)を採用している。保有資産の評価額が著しく下落した場合は、評価を時価に直して差損を計上する減損処理をしなくてはならない。2011年から14年にかけて、中国の需要増を背景に原油価格は100ドル前後で推移、他の国際商品価格も高騰していた。その時期に獲得した海外資源の権益についてはコストが高かったため、減損処理をせざるを得なくなったのだ。

商社の赤字で東証1部の企業業績は減益に

総合商社はその後、住友商事 <8053> も1700億円の減損を計上するなど、総合商社大手5社合計の減損額は1兆円近くに達し、7000億円だった15年3月期を大幅に上回った。

三菱商事の16年3月末の実績の最終益は1494億円の赤字、三井物産は834億円の赤字となった。一方、伊藤忠は資源ポートフォリオが比較的低いこともあり、16年3月期の最終益は18.4%減ながら2404億円だった。

最終利益ベースで、三菱商事が16年ぶりに首位の座から落ち、伊藤忠が初の総合商社業界トップに立った。伊藤忠では16年夏に臨時ボーナスをはずんだようだ。

総合商社の下方修正はその額が大きかったため、日本企業全体の17年3月期の最終利益を大きく押し下げることになった。

東証のデータによると、東証1部全企業の16年3月期の最終益は、2.7%の減益だった。最終益の総額は、15年3月期の約20兆5100億円から約19兆9600億円に約5500億円減少した。

極端な話、総合商社の1兆円の減損がなければ、日本企業の16年3月期は増益だった。それほど商社の赤字は日本企業と日本の株式市場に大きなインパクトを与えた。日経平均は、商社の下方修正後、商社や資源株の下げが牽引して、4月8日に16000円割れまで下げることになる。

今期は商社が利益を押し上げる

前期に減損で評価を変えている分、昨年下方修正要因となった資源関連が、今年は上方修正要因となるだろう。

WTIの原油価格は2014年前半の100ドル台から急落、16年2月には12年ぶりの安値である26ドル台まで下げた。中国の景気後退懸念、世界景気の後退懸念から、石油の需給が大きく崩れたためだった。しかし、原油価格は26ドル台を底に需給の改善により上げ始め、16年11月にはOPEC8年ぶりの減産合意に至ったこともあり、50ドル台を上回るまで回復している。

日本企業の業績が、最終益ベースで10〜12月期に増益となったのは、商社の上方修正が大きく寄与している。17年3月期についても最終利益ベースでは、日本企業は2年ぶりに過去最高益を更新する見込み。セクター別の寄与度では通信や化学を上回り、商社が一番大きくなりそうだ。商社株も総じて堅調だ。

三菱商事は17年2月2日、今期の最終益を従来予想の3300億円から4400億円に上方修正した。鉄鋼生産で使う原料炭価格が上昇しており、前期減損計上した豪州に保有する原料炭の権益からの利益寄与が大きく寄与する。

同社の株価も堅調だ。16年安値は原油が底をつけた2月の1565円、減損下方修正後の安値は16年7月の1679.5円だった。原油や国際市況の回復で、16年7月を底値に株価は回復基調に入り、2017年2月3日には2705.5円と昨年来高値を更新した。16年7月安値からの上昇率は60%を上回っている。(ZUU online 編集部)