「イブプロフェンの服用で心停止のリスクが31%あがる」というコペンハーゲン大学の研究結果が、「欧州心臓病ジャーナル(EHJ)」で発表された。また「ジクロフェナク(非ステロイド系抗炎症薬/NSAIDの一種)ではリスクが50%とさらに高い」とも報告されている。
欧州ではNSAIDと心不全などの関連性を示す研究結果が相次いで報告されており、市販薬の販売に厳格な規制を設けるよう求める声が、研究機関からあがっている。
「ケトロラクによるリスク発症率は83%」BMJ報告
内服薬や注射剤として出回っているNSAIDは、体内で炎症や痛み、熱を引き起こすプロスタグランジンの育成をおさえ症状を緩和する。イブプロフェン、ナプロキセン、インドメタシンなどは、日本でも処方箋なしで入手可能だ。
しかし昨年9月、英医師会雑誌「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)」が、NSAIDと心不全の関連リスクを示した報告書を発表。
2000年から2010年にわたり、英・蘭・独・伊の4カ国で1000万人のNSAID服用者からデータを収集した結果、心不全で入院した患者は9万2163人。そのうち入院最長2週間前にNSAIDを服用した患者には、19%のリスク上昇が見られたという。研究は伊ミラノ・ビコッカ大学が行った。
この際特定されたNSAIDは全7種。イブプロフェン、ジクロフェナク、インドメタシン、ナプロキセン、ケトロラク、ニメスリド、ピロキシカムだ。C0X-2阻害剤であるエトリコキシブ(アルコキシア)やロフェコキシブのリスクも指摘された。中でもケトロラクによるリスク発症率は83%と極めて高かった。
「心不全患者の5割が、入院最長1カ月前にイブプロフェン服用」EHJ報告
3月15日にEHJが掲載した新たな調査結果では、2001年から2010年の期間、心不全で入院した経験のある2万8947人のデータを収集。3376人が入院する最長1カ月前にNSAIDを服用しており、そのうち51%がイブプロフェン、22%がジクロフェナクであったことが判明した。
コペンハーゲン大学は「あらゆるNSAIDの服用がリスクを31%上昇させる」と結論づけている。この報告ではナプロキセン、ロフェコキシブ、セレコキシブと心臓病の関連性は報告されていないが、調査の対象となる事例が少なかったことが原因である可能性も考えられる。
報告書を作成したグナー・ギスラソン教授は、これらの薬品が「市販品」として広く販売されていることに強い疑問を唱えている。「副作用がない・少ない」「手軽に入手できる安全な薬」といったイメージが大きな誤解であり、「処方箋のみで販売されるべき」と訴えかけている。
国によって差がある最大規定量 日本は低め
ギスラソン教授は最も危険なNSAIDはジクロフェナクであるとし、比較的リスクの低いナプロキセンについては、1日500 mg以内の規定量を守ることを勧めている。
また低用量(200 mgから400 mg)の市販薬として世界各地で販売されているイブプロフェンについては、「最大1日1200 mg厳守」を基準としている。海外では規定量を最大1800 mgと定めている国もあるが、日本の市販薬の規制はその半量である600mgだ。
しかしこれらの調査結果がNSAIDの服用自体に焦点を当てていることを考慮すると、「服用量を守っているかぎり絶対に安心」というわけでもなさそうだ。
「規定量」を守っていてもリスクを背負っているケース
実は筆者はNSAIDにひそむ危険性が立証されるにつれ、冷や汗をかいたくちである。英国で暮らす25年間で、何度も規定量を超えるNSAIDを服用した経験がある。
英国では「パラセタモール(アセトアミノフェン)」が、最も副作用の少ない解熱剤・鎮痛剤として浸透している。英国人が体調がすぐれない時に飲む「魔法の薬」だ。しかし病院でもなにかといえば「パラセタモールを飲んで安静にしていろ」といわれるため、症状が改善されない場合は長期間の服用となる。
精神的な作用かも知れないが、服用が長期にわたると徐々に効果が感じにくくなってくる。病院や薬局に行くとイブプロフェンなどのNSAIDとの併用、あるいは切り替えを勧められる。市販のイブプロフェンの規定量は1錠200 mgだが、1回2錠、1日4回まで服用できる。つまり筆者は最大1600 mgのイブプロフェンを、数えきれないほど服用してきたことになる。
きっちりと「規定量」を守っていても、知らず知らずのうちにリスクを背負う羽目になっていたケースである。便利な市販薬の落とし穴には、十分注意したいものだ。(アレン琴子、英国在住フリーランスライター)