政府が進める「働き方改革」の旗印の下、「月末金曜日は午後3時に退社し、余暇を楽しもう」という名目でスタートしたプレミアムフライデーだが、一回目は失敗に終わったようだ。VSNが実施した調査(20代〜50代の働く男女1704人を対象)では、プレミアムフライデーを「知っている」と答えた人は88.8%と認知率は驚くほど高かったものの、「いい取り組みだと思うが自分には関係ない」が47.1%と半数近くに達しており、当日「特に何もしなかった」人が43.9%、「仕事」が35%に対し、実際にイベントなどを楽しんだ人はわずか5.0%だった。

「今回は様子見」と見送った企業も多かったようだが、働く側も「言うのは簡単だが実際は無理」と考えている人があまりにも多いのが影響しているのだろう。

クールビズの成功とプレミアムフライデーの失敗の差とは?

同じように政府が旗を振ったキャンペーンの最大の成功事例は「クールビズ」だろう。両社の成功/失敗の差は、構造改革が必要か否かの差だろう。

クールビズはカジュアルウエアを認め、冷房の温度設定を少し変えるだけで(とりあえずは)済んだが、「プレミアムフライデー」は意識改革の問題ではなく、突き詰めるとビジネス構造の問題だからだ。

労働の量と労働の質

「働き方改革」は労働時間と労働内容、つまり量と質の両面からのアプローチが必要だ。つまり労働力の量と質が変わらなければならない。同質的な労働内容であればその成果は労働時間によって決まる。だが労働の量と質は業種や業務内容で異なるはずだ。すべての社員を勤務時間で管理し評価する方法には限界がでてきた。

ノー残デーやフレックスタイム制といった施策は多くの企業で導入されるようになったが、労働時間で管理するという点では従来と変わってはいない。業務内容が増えると労働時間にしわ寄せがいき、サービス残業、早朝出社、休日出勤などの悪循環に陥りやすい(多くの人がこれを経験しているだろう)。ITを活用して、社外や自宅で業務を行うテレワークを認める企業も増えつつあるが、これでも勤務時間の管理の難しさが導入のバリアになっている企業が多いという。

サービス産業での労働管理は勤務時間からフリーランスの活用へ

労働の質を重視すれば、労働時間での管理と評価から、アウトプットでの評価にシフトする必要がある。そのためには、より短時間で質の高いアウトプットを提供できることが労働サイドにとって重要だ。より効率的に働こうとするなら、できるだけ短い時間で質の高いアウトプットを企業に提供する必要があるからだ。社員を労働時間で縛らず、求めるアウトプットはプロジェクト単位で定義・評価される。

これを突き詰めていくと、プロジェクト毎に必要な労働リソースを集める仕組み・構造に変わっていくことが考えられる。「正社員」という固定リソースを必要とせず、流動性のある労働力、必要なスタッフをプロジェクト毎にアサインするように進化することが考えられる。

「フリーランス」として高いスキルと能力、そして変化する環境への適応力を備えた人材を活用できれば、企業は労働時間という縛りから解放されるだろう。もちろん、労働者にはこれらの条件を満たす高いパフォーマンスが求められるのは言うまでもない。

労働集約型のヤマト運輸でも働き方改革はビジネス構造の改革に

ドライバーの業務がパンクしかけているヤマト運輸も、働き方改革を行うことを労組交渉で協議・合意したと報じられている。ドライバーの労働時間に過渡に依存していた従来のビジネス構造を変更することは収益に直結する。

そのため、収益レベルを下げないために従来の収益構造を見直すようだ。これはドライバーという資産の運用を適正化を図るとともに、どらーバーの負担を軽減するためにサービスメニューの変更や大手クライアントとの契約内容をの見直し交渉を行うという。ヤマト運輸も、ドライバーの働き方改革を「ビジネス構造の課題」と捉えているのだ。

経営にも「改革」が求められる

優れたアウトプットを社員に求めるなら、経営サイドにとっては逆に以下のようなビジネス構造と進め方を改革することが求められるだろう。

「優れた経営戦略」「経営と執行の分離」「強力なリーダーシップ」「円滑なプロジェクト・マネジメントとオペレーション」「明確なアウトプットの評価基準」「結果責任」

技術やノウハウなどと同じように、これらを実現するために労働環境を整え、優れた「フリーランス」をマネジメントすることができれば、競争力を高められるだろう。

「働き方改革」とは実は、時短やフレックス制など現場の働き方や労務管理の問題ではなく、実は経営課題なのだ。企業が競争優位を保つためには、質の高い労働力・人材を確保しよりフレキシブルな働き方を提供すること、パフォーマンスをマネジメントすること、それによって得られるアウトプットを最重視することが必要だ。それを目指して現在のビジネス構造を本気で「改革」することができた企業こそがこれから生き残っていくだろう。

よく外資系の企業がオシャレなオフィスを用意し、素晴らしく自由な環境で仕事をしているような事例が雑誌などで紹介されているが、そのウラにはパフォーマンスを重視しアウトプットで評価する熾烈なビジネスがあることを忘れてはならない。(戸神雷太、広告業界出身のコンサルタント).