「3つの話題で15分話せるレベル」が外国語の最初の目標

昨今では中国や新興国の経済の発展から、英語以外の言語も学ぶべき、などと言われる。しかし、英語だけでも苦手意識がある中で、どうしたら複数の言語に手がつけられるだろうか?海外進出を目指す経営者向けのコンサルティングを行ない、ビジネスマン向けの語学サロンを主催する新条正恵氏は、外資系企業勤務経験の中で、なんと8カ国語を話せるようになったという。その「マルチリンガルメソッド」についてうかがった。

新条正恵,マルチリンガル,語学習得法
(写真=The 21 online)

日本人は英語を「思い出す」だけでいい!

私がこの2年間で約700人の生徒さんを教えてきてわかったことは、「日本人の潜在的な英語力はすでに高い」ということです。

なぜそう言えるかというと、文部科学省が目標とする高校卒業時の英単語習得数は、3,000語です。3,000語を習得できれば、日常会話なら80%、テレビやニュースなら60%程度は理解できるレベルです。つまり、日常生活で困らない程度の英語力を私たちはすでに持っているのです。

それでも多くの人は、「せっかく覚えた単語もすっかり忘れてしまったから、自分は英語を話せない」と思っています。しかし、英語に触れる時間が増すにつれ、次第に思い出してくるものです。これは文法に関しても同じです。学生時代に学んだ英語は完全に忘れ去られたのではなく、記憶のどこかに残っているのだと考えられます。

そうであれば、英語を学び直すにあたって、単語や文法を改めて覚える必要はありません。もともと知っている英語を思い出すだけでいいのです。そう考えれば、英語学習へのハードルはかなり下がりそうです。

「はじめの600語」を100%使いこなす

日本人の英語への苦手意識を助長しているのが、いきなり難しいことを話そうとする傾向があることです。

たとえば、不動産会社で働く人が自己紹介するとき、「不動産会社の物件管理部門で管理職をしています」と、日本語で聞いても理解しにくい専門用語を、そのまま英語で言おうとしてしまうのです。「不動産」は英語ではreal estateですが、その単語が出てこないので、「えーと……」と詰まってしまうのです。

難しい単語を使わなくても、同じ内容を表現することは可能です。たとえばI am a manager of an apartment management company.と言うこともできます。先ほど、日常会話に必要な単語数は3000語と言いましたが、英会話で最も頻繁に使われる単語に限れば600語程度です。

私が独学で8つの言語を習得する過程で編み出したマルチリンガルメソッドは、この「はじめの600語」を100%使いこなして、「いつでも、どこでも、誰とでも、3つの話題なら15分話せる」ことを目標にしています。

もちろん「どんな話も何時間でも話せる」のが理想ですが、そのレベルに到達するには1年以上かかります。「3つの話題なら15分」であれば30日で到達できますし、海外旅行で最低限の会話をしたい、知らない人に自己紹介をしたい、10分程度のスピーチをしたいのであれば、このレベルで問題ありません。

これができた後で、話す時間を増やし、話題を増やし、それに伴い使いこなせる単語を増やしていきます。まずは達成可能な身近な目標を設定し、成功体験を積みながら段階的にレベルアップを図るのが、マルチリンガルメソッドの重要な考え方です。

1日わずか30分、2つのワークで実力UP

学生時代に習った英語を思い出し、「はじめの六百語」を使いこなせるようになるには、そのためのトレーニング法(ワーク)がいくつかあります。その中の2つをご紹介しましょう。

1つめは、音声教材を10分間聞いて、聞こえる単語だけを書き取る「簡単ディクテーション」です。耳を慣らすことが目的なので、文やスペルが完璧でなくても構いません。最初のうちは10分で百語程度しか書き取れなくても、回数を重ねるうちに書き取れる単語が増えていきます。350語以上書けるようになれば合格です。

2つめは、中学英語レベルの簡単な単語を使い、15分という決められた時間でできるだけ多くの英文を作文する「1000文チャレンジ」です。これも慣れないうちは百語程度しか書けませんが、20日くらい続けると200語程度書けるようになります。15分で300語以上書けるようになれば合格です。

どちらのワークも、決められた時間内に書けた単語数を数字化することで、自分がどれだけ伸びたかを実感しやすくなります。これも途中で挫折せずに英語学習を続けるための秘訣です。

英語の次に「中国語」を学ぶべき理由

英語の次にビジネスパーソンが学ぶとよい言語は何かと聞かれたら、私は中国語をおすすめします。なぜなら、アジアで成功しているビジネスパーソンには中華系が多いからです。

一般的に外資系企業の組織は、グローバル本社の下にアジアやヨーロッパなど地域を統括する組織があり、その下に各国の支社が存在します。私が以前勤めていた外資系企業では、日本を含むアジア地域を統括する組織のトップは全員が中華系でした。彼らは仕事では英語を話しますが、雑談時にこちらが中国語で話しかければ、相手の懐に入り込みやすくなります。ビジネスで力を持つ彼らと渡り合うには、中国語は武器になります。

英語以外の第二外国語、第三外国語を勉強する場合も、マルチリンガルメソッドが有効です。英語のように基礎がなくゼロから学ぶ場合は、まずは自分が使う最低限の表現と単語(100語程度)に絞って、使いこなせるよう練習すると良いでしょう。

『マルチリンガル式30日で使いこなせる仕事の英語』
新条正恵著/かんき出版

マルチリンガル,語学習得法

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新条正恵(しんじょう・まさえ)コンサルタント/語学講師
ニューヨークメロン銀行ヴァイス・プレジデント職を経て、その後独立。グローバルリーダーとして働いた自身の経験を活かし、海外進出を目指す企業向けにコンサルティングを行う。また、2016リオ五輪には通訳ボランティアとして参加、2020東京五輪で活躍したい人向けに講演活動を行っている。著書に『マルチリンガル式30日で使いこなせる仕事の英語』(かんき出版)などがある。(取材・構成:前田はるみ)(『 The 21 online 』2017年2月号より)

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