ライフネット生命,出口治明,生産性向上,働き方改革
(写真=ZUU online)

ライフネット生命保険を設立し、ネット生命保険という新市場を切り開いた出口治明氏。働き方改革が叫ばれるなか、自身も経営者として活躍する同氏に、生産性を向上させる働き方について聞く。(聞き手:ZUU online編集部 菅野陽平)※インタビューは3月9日に行われました。

——現在の世界経済や日本経済をどのようにお考えでしょうか。

1970年あたりから長い目で見てみると、良いときもあれば悪いときもあるわけですが、世界全体の平均成長率は3%台で推移しています。先日、OECDが発表した最新のグローバルアウトルックを見ても、2017年の世界全体の成長率が3.3%、米国が2.4%でそんなに悪い数字ではない。色々と問題を抱えているイメージのあるユーロ圏でも1.6%成長。それに対し日本は1.2%成長です。

先進国のなかで一番しんどいのは日本だと思いますね。日欧米という3つの先進地域のなかで最も経済成長率が低いわけですから。でも日本は、世界で一番高齢化が進んでいるので、本来は一番成長しなければいけない国です。

——高齢化が進んでいるから成長しないといけない、とはどういうことでしょうか?

高齢化が進むということは、年々、医療や介護、年金の負担が大きくなるということですから、その分新たに稼がなければ国は貧しくなります。つまり、少子高齢化が進んだ国ほど、生産性を上げて成長しないと、出ていくお金を補えないのです。

日欧米を比較すると、労働力人口が増えている米国が一番成長している。日本より少子高齢化が穏やかなユーロ圏も1.6%成長している。そのなかで日本が1.2%というのはまずい。高齢化が一番進んでいるということは、一番成長しなければ徐々に貧しくなっていくしかないということです。

——日本の成長を加速させるためには何が必要でしょうか。

GDPは人口×生産性。人口が増えないわけですから、重要なことは「生産性向上」です。働き方改革と言い換えても良いかもしれません。日本は2000時間働いて、夏休みは1週間で成長率は1.2%。ユーロ圏は1500時間働いて、夏休みは1ヶ月で1.6%成長。どっちがいいですかっていう話ですよね。

なぜ長時間働いているのに成長率が低いか。それは世の中が製造業主体の工場モデルからサービス業主体の経済に移行しているのに、働き方だけは「サービス業モデル」にシフトせず、「製造業の工場モデル」に合った働き方を続けているからです。言ってみれば、サッカーの試合をするのに、素振り(野球)の練習を延々やっているようなイメージです。それは骨折り損のくたびれ儲けになりますよね。

——「サービス産業モデル」と「製造業モデル」はどのように異なるのでしょうか。

「製造業モデル」は「工場モデル」でもあり、要は長時間労働です。朝早くから夜遅くまで働いたら、その間ベルトコンベアーを稼働し続けることができるでしょう。だから長時間労働は、工場モデル(製造業経済)には向いてるんですよ。高度成長の時代は工場モデルの働き方がむしろ合理的でした。

でも現在、日本のGDPの約7割はサービス業です。サービス産業はアイデア勝負です。朝8時から夜10時まで長時間働いていいアイデアが出ると思いますか。脳が疲れるでしょう。ベルトコンベアーの前で単純作業するだけだったら対応できるかもしれませんが、サービス経済主体の現在は、むしろ早く退社し、色々な経験を積んで発想力や柔軟性を養うことが大切です。

——どのようなことから経験を積めばよいのでしょうか。

僕は「人・本・旅」と言っています。たくさんの人に会ったり、たくさん本を読んだり、たくさんの場所を訪れたりして、脳に刺激を与えなければ、良いアイデアは生まれないと思います。

「メシ・フロ・寝ル」の長時間労働から「人・本・旅」の集中短時間労働でアイデアを出さなければ経済が成長しない段階にきているわけです。働き方改革を行い、長時間労働を是正して生産性を上げなければいけない。生産性を上げるということは、自分の頭で考えて5時間の仕事を3時間で済ませるように工夫するということですから、人が成長するということです。そのためにも働き方改革は不可欠だと思います。

——政府主導でプレミアムフライデーも始まりました。

素晴らしい取り組みだと思います。生産性向上とともに、消費喚起も期待できると思います。

当社(ライフネット生命)もできる限り、働き方改革を進めたいと思っています。2013年8月からNO残業デーを開始していますし、仕事と育児を両立しやすいようフレックス制も導入しています。

——そして浮いた時間を「人・本・旅」に充てると。

人に関しては、ご縁があったら行ってみるのが一番ですよね。誘われたまず行ってみる。新聞とか雑誌とかを読んでて、面白そうな講演会があったらまず行ってみる。しょうもなかったら帰ればいいだけですから。ただ、どこにどんな良い出逢いがあるか分からない。ご縁があったらまずイエスです。

「どうやったら良い本と巡り逢いますか?」という質問を頂くことが多いのですが、間違いないのは古典と新聞の書評です。新聞の書評欄で本を選んで、失敗だったと思ったのはこの10年皆無ですね。それ以上に間違いないのが古典。古典はすべからく良書です。

旅は「現場を知る」ということでもあります。若手はもちろん、役職があがっても役員室や社長室にこもるのではなく、現場に足を運ぶべきです。もちろんプライベートの旅でもいいですよ。行きたい!と思ったときに行くのが一番ですね。興味があるお店や場所があっても、そのときに行かなければ忘れちゃうんですよ。いつか行こうと思っていても。

——最後に御覧頂いている読者へメッセージをお願いします。

たくさんの人に会い、たくさん本を読み、たくさん旅に出て下さい。そして好きなことを極める。興味のあることを極める。興味のないことは身につかないでしょう。なんでもいいのです。何が仕事に役立つかは誰にもわからない。

自分が興味を持ったものを「人・本・旅」で勉強していけば、少なくとも興味を持ったものは身につくでしょう。偉大なリーダーは皆さん異口同音に言っていますが、イノベーションやアイデアは、自分の仕事を深堀りするだけでは生まれないんですよ。色々な世界や色々な人の話を知っていると、あるとき、それらが結びついてイノベーションが生まれるんですよ。自分の仕事を深堀りするのは、それはそれで素晴らしいことですが、24時間ずっと会社で仕事をしていても、イノベーションは生まれないので「人・本・旅」で広い世界を知って欲しいですね。

出口治明(でぐち・はるあき)
1948年、三重県生まれ。ライフネット生命保険株式会社代表取締役会長。京都大学法学部を卒業後、日本生命に入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長など経て同社を退職。早稲田大学大学院講師などを経て、2008年5月にライフネット生命を開業。2012年3月15日に東証マザーズ上場。