アジアインフラ投資銀行(AIIB)は3月23日、カナダ、香港をはじめ、13カ国・地域の新規加入申請を承認した。これで加盟国は70カ国・地域となり、数の上ではアジア開発銀行を上回り、世界銀行に次ぐ規模となった。

AIIBは、2015年12月に設立された中国主導の国際開発金融機関である。習近平国家主席が2013年10月、インドネシアで開かれたAPECに出席するためにアセアン諸国を訪問、その際に国際的なインフラ投資銀行の設立を提唱したことが発端となっている。G7では日本、米国以外の各国が参加している。

(写真=PIXTA)
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一帯一路戦略とAIIBは一対の関係

習近平国家主席はこの時、アセアン諸国訪問前に中央アジア諸国を訪れているが、そこで提唱したのが一帯一路戦略である。

一帯一路戦略とは、シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロードの2つのルートにおける発展戦略である。前者は中国、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、イラン、イラク、シリア、アフガニスタン、トルコ、パキスタン、ルーマニア、ウクライナ、モルドバ、ブルガリアなどが対象となる。

これらの地域全体で交通網、物流網、通信網、エネルギー供給網を整備するとともに、合弁事業を促進すべく要所に重点経済貿易産業園区を作るといった構想である。後者はアセアン諸国、インド、スリランカ、ケニア、ギリシャなどにかけての地域が対象となる。これらの地域において主要港湾を整備し、物流網を発展させる構想である。

AIIBは大規模な国際的な銀行である。とはいえ、一帯一路戦略とAIIBはその構想や設立の経緯を見る限り、本質的には投資プロジェクトとその資金供給といった一対の関係にあり、AIIBの充実は一帯一路戦略の加速に繋がる。

国際化、自由化が中国外交政策の大方針

今後中国は、一帯一路戦略を通じ、ユーラシア大陸からアフリカにかけて、その経済圏を広げようとしている。インフラ投資の拡大、貿易網の拡充は、建設・エンジニアリング、セメント・建材、鉄鋼、建設機械、通信設備、電力設備、港湾、海運などの分野で大きな需要を生むが、国際競争力といった観点から見ると、いずれの分野も中国企業が強い。規模が大きく、実績も豊富、価格面での競争力が強い。

中国政府は走出去政策を進めている。中国企業の国際進出を奨励しており、一帯一路戦略と重なる。自由化、国際化が有利となるのは、相対的に産業の競争力が強く、生産能力の高い国である。

中国は経済発展段階上、フルセット型の産業構造の構築が一通り完了しており、行き過ぎた投資により、石炭、鉄鋼、セメント、ガラス、アルミなどエネルギー・素材を中心に供給過剰産業を生み出すほどである。改革開放以来、現在に至るまでの経済発展の経験や、構築された産業構造はそのまま発展途上段階にあるシルクロード沿線国家の発展に役立てることができる。

保護主義は米国の国益と考えるトランプ政権

米国はこれまで世界各国に対して巨大市場を開放する一方で、投資を通じて他国の輸出産業を育てるといった方法で繁栄を手に入れてきた。自由化、国際化が米国の国益に合致していた。

しかし、こうした方法では、金融機関や一部の革新的企業に富みが集中してしまう。一方で、労働集約的な産業が衰退し、誰でもできる単純作業を行う労働者の求人が増えず、さらに安価な労働力が国外から流入することによって、労働の需給バランスが崩れ、単純作業労働の単価が下がってしまう。結果として、数の上で勝る低所得労働者の不満が高じてトランプ政権が誕生した。

トランプ大統領は1月20日の就任演説において、「保護主義こそが偉大な繁栄と強さにつながる」と明言している。その後、TPPから撤退し、NAFTAの再交渉を行うと表明、海外移転企業に「国境税」を課し、メキシコ国境に壁を建設する方針を示している。また、巨額のインフラ投資を行うとしているが、中国の一帯一路戦略とは異なり、国内での投資である。

米国、日本のマスコミは、相変わらずトランプ批判を強めているが、トランプ大統領の背後には社会の歪が存在し、低所得労働者による根強いが支持あるということを忘れてはならない。

習近平国家主席の米国訪問が4月に予定されているが(現段階では日程未定)、トランプ大統領は習近平国家主席と何を話すのか? 議会対応で厳しい状況にあるトランプ大統領であるが、習近平国家主席がトランプ大統領の行う政策を支持し、インフラ投資の面で米国に協力すると申し入れ、それと引き換えに、米国がAIIBに加盟し、中国の経済圏拡大を容認し、そこに加担するようなことが起きるかもしれないと考えている。次回の習近平国家主席訪米は非常に重要である。

田代尚機(たしろ・なおき)
TS・チャイナ・リサーチ株式会社 代表取締役
大和総研、内藤証券などを経て独立。2008年6月より現職。1994年から2003年にかけて大和総研代表として北京に駐在。以後、現地を知る数少ない中国株アナリスト、中国経済エコノミストとして第一線で活躍。投資助言、有料レポート配信、証券会社、情報配信会社への情報提供などを行う。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。東京工業大学大学院理工学専攻修了。人民元投資入門(2013年、日経BP)、中国株「黄金の10年」(共著、2010年、小学館)など著書多数