シンカー:残念ながら、日本の経済とマーケットに対する海外投資家の関心は低下してしまっているようだ。良い理由は、日本経済がしっかり回復していることに関して、理解が既に広がり、議論があまりないことだ。悪い理由は、経済政策に対する不信感である。財政政策では、2019年10月にも再度の消費税率引き上げが控えており、デフレ完全脱却のモメンタムが強まっても、また財政緊縮により腰折れさせてしまうリスクを強く感じているようだ。金融政策では、金融緩和の量を徐々に削減し、緩和の持続性を高めようとしている日銀の意図を、真実はどうであれ、投資家は感じてしまっていて、それが現行の量の緩和が限界に近く、達成困難とみられている2%の物価目標をいずれ1%に引き下げ、結果として緩和の終了が早く訪れるリスクを強く感じているようだ。デフレ完全脱却を目指す政策のコミットメントへの不信感が、日本の独自な動きの可能性を感じさせず、日本のマーケットに対する持続的な投資を妨げているように思われた。日本経済のしっかりとした回復に関しては理解が広がっているだけに、デフレ完全脱却に対する政策のコミットメントをもっとしっかり打ち出せば、日本の経済とマーケットに対する関心は飛躍的に高まるとみられる。そして、4月19日にはペンス米副大統領の来日で日米経済対話の初会合が開かれたが、デフレ完全脱却に向けた日本の内需拡大への強い政策コミットメントを財政政策を中心に示し、内需拡大により米国の製品・サービスの輸入が増加することをアピールし、貿易赤字の削減を目指す米国が為替水準や日銀の金融緩和継続を問題視することがないように注意する必要があろう。

SG証券・会田氏の分析
(写真=PIXTA)

先週、アジアの投資家を訪問してきた。

残念ながら、日本の経済とマーケットに対する関心は低下してしまっているようだ。

良い理由と悪い理由がある。

良い理由は、日本経済がしっかり回復していることに関して、理解が既に広がり、議論があまりないことだ。

日本経済が回復しているように見えるのは円安のおかげで、企業部門の改革が進展していないという見方はほとんど聞かれなかった。

企業の売上高経常利益率が過去最高であり、失業率がとうとう3%を下回ったことを、回復と改革の進行の証拠として説明してきた。

1980年代後半にも、失業率が3%を下回り2%を目指す過程で、内需が強く拡大し、貿易赤字の削減を目指す米国から内需拡大の圧力があり、金融政策も緩和的な状態が長く続いたことは、現在と似ているという指摘にはかなりの興味がもたれた。

悪い理由は、経済政策に対する不信感である。

財政政策では、2014年4月に消費税率を引き上げ、デフレ完全脱却のモメンタムを弱体化させてしまったことは、かなり評判が悪いようだ。

2019年10月にも再度の消費税率引き上げが控えており、デフレ完全脱却のモメンタムが強まっても、また財政緊縮により腰折れさせてしまうリスクを強く感じているようだ。

日本の財政問題は深刻で、消費税率引き上げを含め財政再建を早急に進めなければいけなという見方はほとんど聞かれなかった。

また、2020年度のプライマリーバランスの黒字化が国際公約であり、それが達成されないと日本の信認が低下するという見方もほとんどなかった。

一方で、財政政策のストップ・アンド・ゴーを続け、デフレ完全脱却に失敗した場合の信認の低下に対する警戒感は強かった。

金融政策では、2%の物価目標が到達できるとはほとんど考えられていないようだ。

日銀は否定をしているが、金融緩和の量を徐々に削減し、緩和の持続性を高めようとしている意図を、真実はどうであれ、投資家は感じてしまっているようだ。

それが現行の量の緩和が限界に近く、達成困難とみられている2%の物価目標をいずれ1%に引き下げ、結果として緩和の終了が早く訪れるリスクを強く感じているようだ。

海外の景気回復が弱くなった場合、日銀が打てる手はもうなく、円高が歯止めなく進行してしまうことも警戒されていた。

一方で、経済とマーケットの過熱も許容するような日銀の緩和の枠組みは縮小されるにしても最後まで維持されるため、海外の景気回復力が強くなれば、円安がもう一段進行し、デフレ完全脱却へのモメンタムが高まるポテンシャルも感じているようだ。

結局のところ、海外の景気とマーケットの回復力次第で、強弱いずれにしても初動が起きてから対応すれば、日本のマーケットへの動きについて行けるという考え方が、日本の経済・マーケットに対する関心の低下につながっているようだ。

やはり、デフレ完全脱却を目指す政策のコミットメントへの不信感が、日本の独自な動きの可能性を感じさせず、日本のマーケットに対する持続的な投資を妨げているように思われた。

日本経済のしっかりとした回復に関しては理解が広がっているだけに、デフレ完全脱却に対する政策のコミットメントをもっとしっかり打ち出せば、日本の経済とマーケットに対する関心は飛躍的に高まるとみられる。

そして、4月19日にはペンス米副大統領の来日で日米経済対話の初会合が開かれたが、デフレ完全脱却に向けた日本の内需拡大への強い政策コミットメントを財政政策を中心に示し、内需拡大により米国の製品・サービスの輸入が増加することをアピールし、貿易赤字の削減を目指す米国が為替水準や日銀の金融緩和継続を問題視することがないように注意する必要があろう。

デフレ完全脱却と米国の貿易赤字の縮小を同時に達成できるWIN・WINの形になる可能性は十分あろう。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
会田卓司

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