米国ではApple Payでの決済が期待通り普及していないようだ。日本は伝統的に、個人、企業とも「現金主義」であり、諸外国に比べてカード決済は今なおすべての決済の20%にも達していない。普及の遅れは、電子決済市場に対する楽観的な見通しがあったことも否めない。

アップルペイは期待はずれの低普及率

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(写真=Aleksandra SuziShutterstock.com)

ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が「アップルペイ、期待外れの低普及率なぜ 消費者は利用に慎重、小売店は使い方分からず」との見出しで、期待はずれの低普及率だと報じている。同紙は、NFC(近距離無線通信)技術を使う非接触型決済端末iPhoneあるいはApple Wacthをかざすモバイル決済に悲観的な現実を解説している。

Appleによると、世界で推定6億8000万人のユーザーの内、Apple Payを利用している割合は13%に過ぎないという。この決済方式を2年余り前に発表した際は、レジ処理を迅速化し、最終的に米消費者の財布に取って代わると楽観的で強気の見通しが多かった。アナリストは、不振の原因として、セキュリティーに対する消費者の懸念や全米小売店の3分の1しか対応が進んでいないこと、マーケティング不足などを上げている。大手小売りチェーンのウォルマートストアやクローガーさえ未対応の有様だ。

米消費者の多くは、利用に慎重である。40%の人がクレジットカードなどスマホに登録する際のセキュリティーリスクを懸念している。また60%以上が非接触型決済に慣れていないと回答している。ある推計によると、2016年のApple Pay決済額は、360億ドル(約3兆9500億円)を下回っている。

日本の市場規模予測も下方修正

電子決済研究所などの報告書(2015年)によると、2020年の日本の電子決済市場規模は、個人消費の30%に迫る最大82兆円になると予測している。2015年のそれは46兆円だった。この内、非接触型電子マネーの決済金額は4兆6000万円で、ほとんどがフェリカによる決済だった。また非接触IC型や電子マネーを含むプリペイドカード決済市場は、約8兆円(2015年)で、最大16兆円(2020年)に拡大すると推定されている。

同じ研究所などの別の報告書(2011年)では、2016年の電子決済市場規模を個人消費の31%、89兆円と予測していた。電子決済予測額は5年遅れに下方修正され、現実との落差が明らかである。

Visaの調査によると、世界の個人消費支出に占めるカード支払い比率(2014年)は、最上位の韓国で73%。カナダ68%、オーストラリア63%と続く。カード大国の米国は41%。現在の日本は17%だから、日本のカード決済は諸外国と比べて著しく低い。

日本では16年10月から攻勢

日本でApple Payのサービスが始まったのは2016年10月。ライバルのGoogleは同年12月、Android Payを開始している。

Apple Payは、その時点で累計発行枚数は約6000万枚余りのJR東日本のICカード乗車券「Suica(スイカ)」にiPhoneをかざすだけで、自動改札口を通過したり、スイカ利用可能な店舗で電子マネーとして支払えたりできるようになっている。iPhoneにクレジットカードの情報を登録すれば、ドコモの決済サービスiDやクイックペイ対応の端末でも決済できる。

国内ではこれまでに、ソニーの「FeliCa(フェリカ)」が普及しており、そのICチップは累計10億個に達している。アップルはそのため、フェリカをiPhoneに搭載している。ローソンは約1万3000店でApple Payに対応するなど、コンビニでも対応が進んでいる。

まだまだ小さな見込み市場

一方のGoogleはモバイル決済サービスに着手するのは非常に早かった。とはいえ4年前に発表した「Google Wallet」は時期尚早だったのか普及しなかった。Android Payのサービス内容はApple Payとそっくりである。

NFCを利用するため、アンドロイドペイ対応スマホをかざすことによって決済できる。次期Android OSバージョンである「Android M」から採用される指紋認証機能との連携もアップルペイと同じ仕組み。

スマートフォン市場のトップ2が、ほとんど同じ仕組みを採用したことによって、モバイル決済が利用できる店舗数が一気に増える可能性はある。しかし、パイの分配は厳しい。
電子決済市場が予測より5年遅れ。まだまだ小さな市場に、Apple、Google、サムスン、そして2018年以降には中国最大手のアリババがアリペイで進出するという。明らかに競争は過熱気味の様相である。

日本人に根強い現金決済主義は変わるか?

あるアップル経営者の1人はそれでも、非接触型決済システムが現金やデビットカード、クレジットカードに取って代わるとの見方を示している。同氏は「そうなるまでに2年あるいは3年かかるか、5年かかるかは重要なことだろうか? 究極的には重要ではない」(WST紙)と語っている。

しかし、日本人の現金志向からすると、2~3年後に一挙にスマホで何の抵抗もなく買い物する姿を想像するのは難しい。モバイル決済は期待先行なのか?日本人に根強い「現金主義」は、一朝一夕に変わるものだろうか。結論はまだ出ていない。(長瀬雄壱 フリージャーナリスト、元大手通信社記者)