企業はその成長過程で「資本と経営の分離」が進むというのが、これまでの経済学の定説だった。けれども最近の日本企業の中には、創業家の存在が再度見直され、経営トップの座が創業家に返還されるような企業も少なくない。
「逆境の時にこそ、創業家が力を持つ企業は強い」という説は、それなりに的を射ているのかもしれない。ここでは、創業家が力を発揮している企業のプロファイルを垣間見ることによって、日本企業にとって創業家とはどのような意味を持っているのかを考えてみることにしたい。
1. トヨタ自動車 <7203>
――章男氏がトヨタを新財閥へ成長
トヨタは創業家が改めて経営を握ったことによって危機を乗り切った企業の代表格だ。リーマンショック後の2009年に、赤字決算という逆境の中で社長に就任したのは、創業者である豊田佐吉のひ孫にあたる豊田章男氏だった。就任1年目には、米国を中心に新型プリウスのリコール問題が拡散し、章男氏は米議会の公聴会での激しいバッシングにさらされることになる。
けれどもトヨタは章男氏の下に結束し、逆境をはねのけるとともに、2015年度には過去最高益を上げるに至る。ともすれば世界シェアなどの数字を追うことにばかり目を奪われがちだった経営から、章男氏は創業家の社長として、「こつこつと持続的な成長を大切にする」するという経営に原点回帰した。
章男氏はトヨタを新財閥へと成長させた創業家と言えるだろう。
2. セブン&アイHD <3382>
――創業家が軸となる経営体制が鮮明に
創業家の力が顕著に示された事例は、セブン&アイHDに見ることができる。「流通の神様」とまで呼ばれたカリスマ経営者の鈴木敏文氏に対し、社長の人事を巡って創業者である伊藤雅俊名誉会長が真っ向から対立、鈴木氏をまさかの会長退任に追い込んだのだ。
2017年4月19日に創業家出身の伊藤順朗取締役が執行役員から常務執行役員に昇格する一方で、約25年にわたって同社を率いてきた鈴木敏文名誉顧問の次男である鈴木康弘取締役は、4月30日付で退任した。伊藤順朗氏の昇格は、創業家が軸となる経営体制を一段と鮮明なものにしている。
3. 出光興産 <5019>
――出光興産の経営陣と創業家の対立が話題に
2017年4月1日、石油業界ではJXホールディングスと東燃ゼネラル石油が合併して、シェアが5割を超えるJXTG HD <5020> という巨人が誕生した。けれども業界再編の流れに乗っていたはずの、出光興産と昭和シェル石油 <5002> の合併作業は、一向に進む気配がない。その最大の要因は、出光興産の経営陣と創業家の対立だ。
出光昭介名誉会長ら出光興産の創業家は3月28日、昭和シェル石油との合併にあらためて反対する申し入れ書を連名で提出した。それまでの反対理由が社風の違いといったものだったのに対し、今回はより具体的に、両社の製油所の多くが近接していることや、昭和シェルの太陽光事業が赤字になっていることなどの問題点を指摘している。
4. サントリーHD
――サントリーHDは非上場会社のまま
サントリー食品インターナショナル <2587> が東証1部に上場しているのに対し、持株会社のサントリーHDは非上場会社の代表としての地位を守り続けている。そのサントリーHDは2017年4月、国内のビール事業会社を含む酒類事業を束ねる役割を担う、新会社の「サントリーBWS」を発足させた。同社の社長に就任したのは、創業家出身の鳥井信宏氏だ。
信宏氏はサントリーHDの鳥井信一郎元社長の長男で、サントリー創業者の鳥井信治郎氏の曾孫にあたり、現在の副社長職も兼任している。新会社の傘下には、ビール事業のサントリービールや国内営業のサントリー酒類、ワイン事業のサントリーワインインターナショナルなどの各事業会社が名を連ねている。
5. シャープ <6753>
――創業家である早川家の復活か
経営再建の途上にあるシャープが、台湾の鴻海精密工業の傘下に入ってからわずか1年も経たないうちに、業績の著しい回復ぶりを見せている。そのシャープに関する見方として注目されているのが、創業家である早川家の復活だ。
同社には創業者の早川徳次氏の孫で、シャープ・エレクトロニクス・ロシア社長を務める早川誠次氏をはじめ、3人の直系子孫が席を連ねている。現在は鴻海から派遣された戴正呉社長が再建の指揮を執っているのだが、同社長はシャープを東証一部に復活させるという目標を掲げている。
6. 森永製菓 <2201>
――ファーストレディ 安倍昭恵氏も森永創業家の直系
このところメディアを賑わせているファーストレディの安倍昭恵氏だが、氏の曾祖父には森永製菓創業者で初代社長を務めた森永太一郎氏、祖父には第3代社長の森永太平氏がおり、父も第5代社長の松崎昭雄氏と、まさに森永創業家の直系にあたる。
2018年4月を目途とする、兄弟会社の森永乳業 <2264> との持株会社による経営統合が実現すれば、トータルの売上高が8000億円に迫る、明治HD <2269> に続く総合製菓・乳業メーカーが誕生することになる。持株会社の会長には森永乳業の宮原道夫社長、社長に森永製菓の新井徹社長が就く方向だと言われているが、創業家の力が脈打つ企業になるだろう。(ZUU online 編集部)