急速な経済成長で世界中の投資家から注目を浴びているインドだが、気になるのは成長の持続性だ。

インドは正真正銘の「最も期待できる新興国」なのか、一過性のバブルのような成長で終わりをむかえるのか。その無限の可能性は、人口増加対策、教育医療・衛生分野の改善、所得格差問題の縮小、市場投資強化など、致命的な弱点の克服にかかっているとの見方が強い。

中間所得層、家計貯蓄額の増加 モディ政策も高評価

インド経済の急成長ぶりには、確かに目を見張るものがある。GDP(国内総生産)成長率は2年連続7%を超え、鈍化した先進国や中国経済を尻目に快進撃を続けている。

国の成長とともに中間所得層が増加し、2015年の時点で国内人口の5%(5000万人)を突破。2030年には4億7500万人に達すると、アーンスト・アンド・ヤング は推測している。

家計貯蓄額 は過去10年で、9兆 9430億ドルから26兆990億ドルへと急増(tradingeconomics.comデータ)。観光、貿易といった従来の産業に加え、テクノロジー分野での発展も目立つ。

円熟期に入り低迷する先進国とは対照的に、「まだまだ成長成長過程にある若い国」の代表格と見なされている。

モディ首相の長期的効果を優先させた斬新な経済政策は、海外からの評価も高い。昨年11月には非合法資金撲滅策として、突然の高額紙幣廃止実施で国中をパニックにおとしいれたものの、混乱を乗りきりデジタル経済化への一歩を踏み出した。

国を混乱におとしいれた高額紙幣騒動の影響がゼロ?

こうしたインド経済の潜在性に対する大きな期待が、多くの投資家を魅了してやまない要因である。

しかし英金融情報誌「Money Week」のライター、ジョナサン・コンプトン氏などは、「成長を期待できる要因よりも、ネガティブな要因の方が多い」と否定的だ。「インドが長年にわたる文化や伝統、環境から脱皮を図ることは困難」との見解を示している。

また公表されているGDP成長率の信憑性自体に、疑問を唱える声もあがっている。英シンクタンク、アダム・スミス・インスティテュートの上級研究員、ティム・ウォースタール氏は、 国民の過半数が両替のために銀行の外に長蛇の列を作った高額紙幣が、「その後の経済に何のマイナス影響もおよぼしていないとは考えにくい」と、7%を下回る気配を見せないGDPの成長率に潜むグレーゾーンを示唆している。

スキルのある若い人材を育て労働力につなげる

インド経済の成長を阻むとされる、ネガティブな要因について堀り下げてみよう。コンプトン氏の指摘どおり、インドは膨張する人口、教育および医療・衛生領域での延滞、所得格差問題などに加え、市場投資の脆弱性といった致命的な弱点をかかえている。

特に教育および医療・衛生領域を比較されることの多い中国と比較した場合、10年以上も遅れているとの見方も強い。

国際信用格付け企業、フィッチ・レーティングス は昨年発表したレポートの中で、未来のインド経済のカギを握る、教養とスキルをもった若い人材を育てていくためには、「20万校の小・中・高校、4万2000校の専門学校・大学が必要」と、インドにとっての最大の課題のひとつを明確にした。

人口増加は別の角度から見れば、労働力の強化につながる。しかしあくまで、その労働力に経済に貢献するスキルがあることが大前提となる。巨大な労働力を収容するためには、施設、環境を含めた巨額の投資が必須となる。

これらのハードルをひとつひとつ排除し、開放的な国際経済の促進に向けて全力で取り組まないかぎり、持続的は成長は望めないという結論に達する。

モディ首相の大改革は始まったばかりだ。インドが世界一の経済大国に成長するか否かは、今後、どれほどの変化に対応していくことができるかの一点にかかっているだろう。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)