マイクロソフトのホロレンズ(HoloLens)が注目されている。サングラス型のヘッドマウントディスプレイであり、一見するとVR(仮想現実)用のディスプレイと大差ない。

2015年1月に発表、2016年3月に発売を開始し、日本でも2017年2月からの入手が可能になった。しかし開発者向けの発売のみで一般消費者が入手するのは難しく、加えて最低構成でも33万3800円からという価格設定も、他のVR用ディスプレイと比べて文字通り「桁違い」である。ホロレンズは、他のVRやAR(拡張現実)とは、何が違うのだろうか。

VRでもARでもない「MR(複合現実)」

マイクロソフト,VR/AR
(画像=マイクロソフトWebサイトより)

ホロレンズは、かなり大きなサングラス型のディスプレイで、重量は579g、Windows10を搭載しているため、これ自体がコンピュータである。ディスプレイの部分には透過型レンズを使用しているため、完全に仮想の世界をCGで見せるVRとは全く違う。

マイクロソフトでは、ホロレンズを「MR(複合現実)」と定義しており、透過型レンズを通して見るものにホログラムを組み合わせて表示させるという形式のものである。そのため性格的にはARに近い性能を持つが、ARがデジタルのコンテンツを現実の風景に重ね合わせて表示するのに対し、MRはデジタルのコンテンツが現実世界に埋め込まれたように表示される。大きな違いは無いように思えるが、「現実の風景」を優先させるのか、「デジタルコンテンツ」を優先させるのかという設計思想の違いが見て取れる。

いまだ開発段階で実例は少ないが……

ホロレンズ自体が先述の通り一般発売されておらず、開発者向けのみの発売となっていることからわかるように、いまだ開発段階にあるのがホロレンズである。現在は基礎研究を重ねている段階だとも言える。とはいえ、ホロレンズ用に開発されたアプリはいくつか存在し、その一つがSkypeである。室内を移動しながらSkypeのウィンドウが実際の風景に埋め込まれたような形で表示される。つまり、場所をしていすれば、見ているSkypeの画面は動かないというイメージだろうか。

その他にもジェスチャーを使ってウィンドウを開閉したり、アプリを起動したりといったこともできる。つまり、透過ディスプレイを見て、そこにアプリのウィンドウを重ね合わせるのではなく、周りの環境(室内のどこになにがあるか)をセンサーで定義する技術と、それらの座標情報を管理してキチンと表示させるという技術が不可欠となる。ここがARとの大きな違いである。

展示会場にもなかったホロレンズ。その理由は?

5月に東京でIT系の大きな展示会があった。BtoBが主な内容だったが、ひょっとしたらホロレンズの展示もあるのではないかと筆者は考えていた。しかしマイクロソフトのブースにはSurfaceとWindows10 mobileしかなかった。仕方が無いのでSurfaceの説明員に話を伺ったところ、興味深い話をいくつも聞いた。

もっとも研究が進んでいる例として、航空会社の例がある。航空機を整備する際に、整備員にホロレンズを装着してもらう。航空機の整備はすべてマニュアル化されており、そのマニュアルに従って整備が行われる(飛行時間に応じた整備レベルがある)。航空機の整備では、どこになにがあり、それをどのようにするべきなのかが極めて重要になってくるが、MRであらかじめ準備された整備マニュアルと組み合わせることにより、整備員の視界を遮ることなくマニュアルを表示させることが可能(ホロレンズはメガネをかけていても装着可能)であり、より確実な整備を行える。

ホロレンズの特徴として、単一の情報をホロレンズ同士でWi-Fiを経由して共有するというものがあるが、航空機という単一の舞台で、整備マニュアルという単一の情報を表示させることにより、情報共有すらも行うことが可能となる。同様の理由で、アメリカ航空宇宙局(NASA)での研究も始まっているそうだ。

この話のように、例えばデモでホロレンズの機能を見せようと思った際にも、それなりの空間対象物、さらには確立した空間定義が必要となる。VRのディスプレイのように、単純にCGを見せれば良いというものではないので、なかなかデモがやりにくい…との話である。

透過型のディスプレイの向こうに見える未来とは

発表から比較的時間がたっているホロレンズだが、活用方法が徐々に形として見えてきている。先述の航空機整備の現場もそうだが、医療現場における手術室で、そこに居合わせた医師と看護師すべてが切除部分の情報を共有して手術手順を確認するといった試みや、日本マイクロソフトが新潟県の小柳建設と連携して、工事の工程表や設計図などをホロレンズを使って共有化するいった試みもなされている。

これらの実証実験から読み取れる事実は、わかりやすく「視覚化」することによる作業の平準化と言える。労働者人口の減少に直面している日本としては、限られた人材で最大限の効果を得られる可能性のあるホロレンズには、未来への期待を寄せても良いのではないだろうか。(信濃兼好、メガリスITアライアンス ITコンサルタント)