ロシアのビリオネア、アリシェル・ウスマノフ氏が、13億ドル(約1445億6000万円)で英フットボール・クラブ、アーセナルの株の買取ろうとしていることが 、欧米メディアの報道から明らかになった。
プレミアリーグ優勝歴13回のアーセナルの最大株主は、米実業家のスタン・クロエンケ氏で、現在67%の株を保有している。対するウスマノフ氏の保有株は30%と、半分以下にとどまる。
筆頭株主となることでクラブ運営での発言権を拡大し、不調の続くクラブ再編を試みる意図がある。ウスマノフ氏が筆頭株主となった場合、一流選手への「投資」が活発化する可能性が高い。
フットボールファンのウスマノフ氏と、利益創出に徹するクロエンケ氏
ウスマノフ氏は以前から、クロエンケ氏によるビジネス・ライクな運営法が、アーセナルの潜在性を阻んでいると非難していた。ブルームバーグの取材では、「一流の選手を集めて一流のクラブを築くための、十分な投資が成されていない」 と語っている。
ウスマノフ氏が根っからのフットボール・ファンで、自ら試合を観戦する機会も多いのに対し、クロエンケ氏はあくまでビジネスの一環としてアーセナルの大株主の座についている。ウスマノフ氏は「最良のスポーツクラブのオーナーは、物事を両面から見ることができる人物だ」と、暗にクロエンケ氏の視野の狭さを批判している。
アーセナルの不調を受け、株主の多くがアーセン・ベンゲル監督の退任を望んでいるにも関わらず、クロエンケ氏はベンゲル監督との契約継続を望んでいることが、アーセナル・サポーター・トラストの役員 の話からも明らかになっている。こうした株主間の対立が、ウスマノフ氏のクラブ買収の裏にあることは明らかだ。
3兆円市場に成長を遂げた欧州フットボール
ウスマノフ氏とクロエンケ氏の例が示すように、フットボールクラブの所有に興味を示すのはフットボールファンだけではない。実業家にとっては、クラブ運営は事業経営同様、利益を創出するか損を出すか、才覚が問われるところだ。一流のクラブに育てあげればあげるほど、利益も大きい。
デロイトの調査 によると、2016年度の各プレミアリーグ戦は、テレビ放送だけでも1020万ドル(約11億3424万円)の利益が見こまれていた。ファースト・ディビジョン 22クラブによる視聴料収入は、1500万ドル(約16億6800万円)だ。
欧州のフットボールが市場を占める割合は非常に大きく、2014年度の収益は220億ユーロ(約2兆7409億円)に達している。そのうち54%をトップ5クラブ(英・独・仏・伊・西)が独占しており、次いでトップ5以外(21%)、FIFA・UFFA・各国のサーカー協会加盟クラブ( 13%)、欧州圏外のトップ5(10%)という割合。
欧州トップは英国で、2014年度の収益は前年比10%増の44億ユーロ(約5481億8931万円)。後を追うドイツ(23億9200万ユーロ/約 2980億1564万円)のほぼ2倍である。
収益の9割は一流選手の報酬に
こうした莫大な収益のうち、89%は選手の報酬に回されているという 。現在レアル・マドリードに所属するクリスティアーノ・ロナウド選手は、総額8200万ドル (約91億1840万円、米フォーブス2016年調査)。うち5300万ドル(約58億9360万円)がクラブから受けとる報酬だ。
バルセロナ所属のリオネル・メッシ選手は5100万ドル(約56億7120万円)のクラブ報酬を含め、総額7700万ドル(約85億 6240万円)、マンチェスター・ユナイテッドのズラタン・イブラヒモヴィッチ選手は3000万ドル(約33億3600万円)のクラブ報酬を含め、3700万ドル(約41億1440万円)となっている。
つまりウスマノフ氏のいう「投資」とは、一流の選手を集結するだけの経済力を指すようだ。ウスマノフ氏自身はベンゲル監督の才覚を高く評価しており、一流のプレイができる選手を集め、育てることで、ベンゲル監督本来のフットボールを再現することができると確信している。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)