資生堂 <4911> といえば、2015年に外国人観光客の爆買いの恩恵を受けた「インバウンド関連銘柄」の一つとして覚えている人も多いことだろう。同社の株価は、同年の夏に過去最高値となる3327円を付けている。

当時、インバウンド関連は大変な盛り上がりを見せたが、現在その銘柄の多くは調整場面にあり、2015年の高値を上抜くことができずにいる。

ただし、資生堂は例外である。同社は今月に入り上昇傾向を強め、1年9カ月ぶりに過去最高値を更新したのだ。今回は資生堂が高値を抜いた背景に迫ってみよう。

株価は3カ月で30%の上昇

5月15日、資生堂の株価は前日比7%高と急騰、インバウンド消費ブームのピークとなる2015年8月に付けた過去最高値を更新した。その後も株価は上昇傾向を強め、2月に付けた年初来安値から3カ月で30%の上昇を記録している。

急騰のきっかけとなったのは、12日発表の2017年12月期第1四半期決算(1〜3月)だった。同期の売上は9%増の2325億円、本業の利益を示す営業利益も9%増の241億円となり、第1四半期としては過去最高を記録したのだ。

通期予想については、売上が11%増の9400億円、営業利益は24%増の455億円と据え置いたものの、通期の営業利益予想の455億円に対する進捗率は3カ月で53%に達している。市場はサプライズ決算と受け止め、翌15日に買い気配となった。

インバウンド関連銘柄の「その後」

2015年夏に賑わった「インバウンド関連銘柄」としては、資生堂の他に三越伊勢丹ホールディングス <3099> 、ビックカメラ <3048> 、マツモトキヨシ <3088> 、ドンキホーテ <7532> 、ユニチャーム <8113> 、象印マホービン <7965> などがあった。各社ともインバウンドの「爆買い特需」の恩恵を受けて、2015年夏に歴史的な高値を付けている。

その後、インバウンド旅行客数の伸びはスローダウンしはじめたほか、中国人旅行客の「爆買い」から「体験型」への移行などの変化が見られるようになった。インバウンドによる特需効果も一巡し、関連銘柄の中には2015年の高値から大きく水準を下げたものもある。

日本、中国の「プレステージ事業」が絶好調

インバウンド関連銘柄の多くが低迷する中で、資生堂の業績・株価を牽引しているのは、ズバリ「中国事業」である。資生堂の化粧品は中国で広く定着しはじめており、いまやインバウンド関連銘柄でなく、「中国の内需銘柄」となった印象さえ受ける。

ちなみに、資生堂の第1四半期の地域別の売上構成は日本が44%、中国が15%となっている。現地通貨ベースでの売上の伸びは、日本事業が3%増に対し、中国事業は21%増だ。中国で20%を超える伸びは2012年以来のことである。

中国事業の営業利益は66億円、前年同期の35億円から89%の伸びを示した。営業利益率も18.6%と前年同期の11.3%から7.3ポイント改善している。

日本事業の営業利益は12%増の199億円。営業利益率は19.7%。採算こそ日本事業のほうが高いがモメンタムは中国が完全に凌駕していると言えるだろう。

日中とも「中高価格帯」として注力しているプレステージ事業が絶好調だ。日本でのプレステージ事業は21%増、同じく中国は60%増である。中国での化粧品の高級化が一気に進み始めた状況を読み取ることができる。

そもそも化粧品はリピート率の高い商品である。その点を踏まえ、日本や中国にこだわらず、ボーダレスマーケティングを強化し、空港などで大々的なプロモーションを展開したのも大きい。中国旅行客が日本で初めて買った商品を、空港や帰国後の店頭、Eコマースでもリピートで購入するといったサイクルを強化したのだ。

その結果、中国でのEコマース売上は30%も増えている。Eコマースにおける「中高級ライン」のプレステージ比率も前年同期の1桁前半から10%近くまで上昇した。好採算のプレステージやEコマースの伸張は採算改善への寄与も大きいといえる。

「美」のニーズに国境はない

5月19日、日本政府観光局が発表した4月のインバウンド旅客数は前年同期比24%増と高い伸びを示している。また、日本百貨店協会が発表した4月の外国人観光客のインバウンド消費(※免税売上)は前年同月比23%増、消耗品の売上は67%増となっている。化粧品は消耗品に含まれており、化粧品のインバウンド需要は落ちていない。

資生堂の分析によると、訪日1回目の中国人女性の化粧品購入率は約80%、それが2回、3回と増えるにつれて、化粧品購入率も87%、88%と高まる傾向にある。また、日本で購入した商品を中国に帰国後、 リピート購入した経験がある女性も約50%になるという。彼女たちの消費行動が、中国での店頭販売やEコマースの売上を牽引している。

「美」のニーズに国境はない。
2015年夏の歴史的高値を更新し、ワンランク上のステージを迎えた資生堂から目が離せない。(ZUU online 編集部)