「銀行員は資格試験や昇進試験などたくさんの試験があって、勉強にかなりの時間を費やさなければならないのでしょうか?」

先日、就職活動中の大学生からこんな質問を受けた。いまやインターネット上にもたくさんの情報が溢れており、「銀行員は勉強が大変」というのが就活生の常識のようである。

もちろん、答えは「イエス」だ。
私自身、他の業種の友人と比較しても、銀行員ほど日常的に試験勉強に励んでいる者はいないと認識している。

休日に銀行員に会いたければ「ファストフード店」に行け!?

休日のファストフード店やコーヒーショップをのぞいてみると、参考書や問題集に食らいつくように勉強している人がいる。彼らが手にする本のタイトルには「宅建」「FP」、そして「銀行業務検定」といった文字が並ぶ。他には看護関係の参考書を広げている人も目に付くが、銀行員と思われる人の占有率が高い。

実際、同僚に聞いてみると、やはり休日のファストフード店で試験勉強をしている人が多い。家にいると、ついついテレビを見たり、たくさんの誘惑があるので勉強に身が入らないからだ。ファストフード店などで同じように勉強している人達を意識することで勉強に身が入るのである。

銀行員が受けなければならない試験

では、銀行員は何のために試験勉強をしているのだろうか。
まず、銀行で金融商品を販売するには証券外務員という資格が必要になるし、保険を販売するにも試験に合格しなければならない。こうした資格は余裕で取得していなければ、お話にならない。

しかし、銀行で最も重要視される試験は「銀行業務検定」だ。
1968年に始まった「銀行業務検定」は、2016年3月までに133回を数え、受験応募者の累計で950万人を突破、年間の受験者数は28万人を超えている。この数字を見ただけでも、銀行員がこぞって受験しているのが理解できるだろう。

銀行業務検定では「23系統37種目」の試験が実施されている。
具体的には、法務・財務・税務・外国為替・金融経済・証券・信託実務・法人融資渉外・個人融資渉外・FA・窓口セールス・年金アドバイザー・営業店管理・融資管理・デリバティブ・投資信託・保険販売・金融リスクマネジメント・経営支援アドバイザー・預かり資産アドバイザー・金融商品取引・相続アドバイザー等である。

銀行員は、これら試験をすべてクリアしなければならない。件の就活生が想像する通り、我々銀行員は「年がら年中試験勉強ばかりしている」と思って頂いて良い。

だが、いまの時代、「銀行業務検定」だけでは十分とは言えない。近年はどの銀行も「ソリューション営業」という言葉を頻繁に使っているが、いまや「FP(ファイナンシャルプランナー)」の資格も不可欠である。

ちなみに、我々銀行員が目指すのは国家資格である「FP技能士」だ。かつては2級を取得していれば十分であったが、いまや金融商品の販売に携わる部署では「1級でなければ馬鹿にされる」のが実情である。また、住宅業者との接点も多いことから、宅建士(宅地建物取引士)の資格取得に励む行員も多い。

試験の合否が出世に影響する?

もちろん、上記にあげた試験をどれだけクリアしているかによって、昇進にも大きく影響する。一定の年齢までに、必ずクリアしなければならない項目があり、それが果たせなければ「出世の道」が閉ざされることにもなりかねない。

この手の話しをすれば、必ず出てくるのが「たくさんの試験に合格したからといって、実務能力が高いとは限らない」との意見だ。私もかつては同じ考えであったが、いまは違う。すなわち、「試験に合格できない人間は、仕事だってできない」というのが私の考えだ。

試験勉強は大の苦手だが、営業成績は抜群に良い。昔はそんな銀行員がいたのも事実だ。しかし、いまや我々銀行員が販売している金融商品やサービスは非常に複雑かつ高度な専門知識を必要とするものが多い。

デリバティブを複雑に組み合わせた投資信託や、オプション取引を利用した仕組債……これらを正確に説明するためには、それ相応の知識が要求される。また、税務面での効果や相続対策として金融商品を販売するケースも増えている。その際には、さらに税務や民法の知識まで要求されることになる。

勉強とは世の中の仕組みを知り、社会のルールを理解すること

「真心を持って接すればお客様に通じる」なんてことは過去の話だ。知識を持たずに金融商品を販売することは、お客様に多大な迷惑をかけることにもなりかねない。我々銀行員が日々勉強するのは、単に出世のためだけではない。お客様との信頼関係を築くためにも必要なことなのだ。

「そんなに勉強が大変なら銀行に就職したくない」
いまどきの就活生の中には、そう考える人がいるかも知れない。

だが、試験勉強とは世の中の仕組みを知り、社会のルールを理解することだ。こんなに楽しいことはない。勉強がイヤだから銀行に就職したくないなんて考えないで欲しい。自分で勉強したことは必ず自分のために役立つはずだ。(或る銀行員)