日本を訪れる外国人観光客が増える中、地方空港で国際線の撤退が相次いでいる。大都市圏の拠点空港が発着枠を拡大したことにより、格安航空会社(LCC)などがシフトしているためで、首都圏に近い茨城県の茨城空港や静岡県の静岡空港は国際線の運航本数が大幅に減少した。
大都市圏から離れた空港では、新路線の就航にこぎつけた例もあるが、LCCを含めた外国航空会社の誘致競争は激しさを増す一方。国土交通省は全国から約20の地方空港を選び、国際便就航を後押しする方針を打ち出している。
茨城空港は中国、台湾の新規路線が壊滅
東京国際空港ターミナルによると、東京・羽田空港に発着する国際旅客便は5月のダイヤで出発、到着とも1日当たり約110便。同社は「発着枠の拡大により、前年5月の100?105便に比べて5?10便増えた」と説明している。
千葉県の成田空港、大阪府の関西空港、北海道の新千歳空港、愛知県の中部国際空港など大都市圏の拠点空港もそろって増便や新規就航が相次いでいる。その影響をもろに受けたのが、大都市圏の近くにある地方空港だ。
2010年に開港した茨城空港は、早くから中国のLCC・春秋航空の上海便が運航していたが、中国南方航空が2015年、訪日中国人観光客の増加に合わせて深セン便を就航させたのをはじめ、中国国際空港の杭州便、台湾のLCC・Vエアの台北便、春秋航空の成都・揚州便が相次いで就航、一時は国際便が週に19便発着していた。
座席利用率はいずれも6?7割を維持していたとみられる。LCCの採算ラインとされる80%には及ばないが、通常の国際便としてはそれほど悪くない。しかし、これら新規路線は2016年4?9月に次々に撤退した。各社は茨城県に対し「機材繰りのため」と説明したという。現在は上海便が水曜日を除く毎日1便運航しているだけだ。
中国などの航空会社は羽田など拠点空港の発着枠を確保できなかったことから、セカンドベストの選択で地方空港に就航した。訪日観光客の増加に伴い、全国の地方空港で中国や台湾との定期路線が相次いで就航し、運賃の値下げ競争に入る中、少しでも高い座席利用率を確保しようと考え、拠点空港の発着枠が拡大するとシフトしている。
茨城空港は北関東唯一の空港としてだけでなく、首都圏の拠点空港を補完する役割を担おうと、国際旅客便の誘致に力を入れてきた。茨城県空港対策課は「常磐道へのアクセス改善などを進め、地道にPRしていくしかない」と対応に苦慮している。
静岡空港も中国便撤退で、国際線搭乗客が大幅減に
苦境に立たされているのは、静岡空港も同じだ。2016年に韓国のLCC・エアソウルがソウル便の運航を始めたものの、羽田空港や中部国際空港にシフトする中国便の撤退が続いている。
就航から1年間着陸料無料やチャーター1便当たり100万円の補助など、静岡県は至れり尽くせりのサービスで誘致を続け、ピークの2015年秋には、中国本土を結ぶ路線が13路線、週39往復を数えたが、現在は4路線、週15往復に落ち込んでいる。2016年度には南京便、温州便などが撤退、2017年度も北京首都航空の瀋陽便が5月で運休した。
静岡県によると、2016年度の静岡空港搭乗客は前年度比12%減の61万人。2009年度の開港以来、2番目に高い数字だが、国際便の搭乗客数が前年度比29%減の28万人に落ち込んだことから、国内、国際便合わせて70万人の中期目標に及ばなかった。
エアソウルのソウル便が7月から週1便増えて週6便になるなど明るい材料もあるが、首都圏、中部圏の拠点空港に比較的近いだけに、拠点空港発着枠拡大の影響は大きい。
国交省は全国約20の地方空港を重点支援する方針
これに対し、拠点空港から比較的距離がある地方空港では、競争を勝ち抜いて国際便の就航にこぎつける例もある。青森県の青森空港がその1つで、5月から中国奥凱航空の天津便が就航した。大韓航空のソウル便は運航しているが、中国本土への定期便は初めてになる。
宮城県の仙台空港や新千歳空港という北日本の拠点空港から一定の距離があるため、影響を受けにくかったとみられる。青森県交通政策課は「新路線の座席利用率は5月21日までで78.8%と順調。中国で青森の知名度を高め、さらに路線拡大を目指したい」と意気込む。
国交省は地方空港での国際便就航を推進するため、重点支援する「訪日誘客支援空港」を募集している。指定を受ければ新規就航や増便にかかる着陸料の軽減、施設整備への補助などが講じられる。
指定空港は20カ所程度とする見込み。国交省航空戦略課は「夏ごろまでに指定空港を決め、そのあとで支援措置に対する補助申請を受け付けたい」としている。
人口減少と高齢化の進行に苦しむ地方は、増加の一途をたどる訪日外国人観光客の誘致に力を入れている。定期便が就航すればその分、地元に落ちる金も増えることから、路線の激しい争奪戦が続いている。
この競争を勝ち抜くためには、地域の魅力をどうやってアピールするか、県を挙げて考える必要があるだろう。特に拠点空港の発着枠が広がっている大都市圏周辺では、思い切った対策を講じなければ、時代の波に飲み込まれることにもなりかねない。
高田泰 政治ジャーナリスト
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関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。