理想的な会社組織といったものは、一体どういった形なのだろうか? 中国の国有企業は今、混合所有制改革を通じてその答えを見出そうとしている。

国有企業改革の歴史は古く、開放改革直後から現在まで延々と続いている。1978年当時の国有企業は経営体としては組織の体をなしていない状態であった。そこから、経営権を与え、国への上納と内部に蓄積する利益をしっかりと区別させた。さらに、経営陣に経営責任を負わせ、上納を税に変え、企業の経営メカニズムを利益追求のための組織へと転換していった。

1992年には現代企業制度を打ち立てるといった目標を設定し、現代に繋がる国有企業改革が始まった。(1)法律に基づいて企業の出資者と企業の財産との関係をはっきりとさせる、(2)株主の所有権と企業の法人財産権を明確にする、(3)政府・政治と企業を分離する、(4)科学的な管理を行う、といった4つのポイントに基づいて改革が行われ、最終的に株式会社化、上場することで国有企業改革は一応の完了とみなされた。

中国上場国有企業の欠点とは?

中国企業
(写真= Pieter Beens/Shutterstock.com)

しかし、上場企業には重大な欠点が存在する。それはほぼすべての上場国有企業には親会社として国有企業集団公司が存在するといった点である。なぜそれが問題なのか?

1つは国有企業の所有者の意思がはっきりとしない点である。中央系であれば、国務院国有資産監督管理委員会、地方系であれば各地方政府の国有資産監督管理委員会が事実上の筆頭株主となっている。しかし、これらの組織は名目でしかない。世界的にみた最先端の企業経営では株主による強いプレッシャーを受けて、収益の最大化やコンプライアンスの徹底遵守を行うが、中国の国有企業にはそうした力が働きにくい。

もう1つは実質的な支配者となるのは結局、中央系では主管部門、地方系では地方政府であり、彼らの利害によって経営が左右されてしまう点である。鉄鋼産業を例に挙げれば、国家全体から見れば明らかに生産能力が過剰だが、地方政府の立場としてはほかの地方政府との競争があり、経済原則を超えて設備投資をしてしまうようなことが起きてしまう。

こうした問題を解決するには、国有企業集団公司の資本構造を明確にした上で、株主を多様化し、名称は集団公司のままとしても、株式会社と同様の収益追求を目指す組織形態に進化させる必要がある。

電力、石油など7分野が改革の対象

こうした考え方に基づき、産業構造調整を合わせて行う形で現在、混合所有制改革が行われている。2016年9月、改革のための第1弾テスト企業が発表された。電力、石油、天然ガス、鉄道、民間航空、通信、軍需の7分野から、中国東方航空集団公司、中国聯合網絡通信集団有限公司、中国南方電網有限責任公司、哈爾濱電気集団公司、中国核工業建設集団公司、中国船舶工業集団公司の6社が指定された。

国家発展改革委員会政策研究室の厳鵬程主任兼報道官は4月13日、「混合所有制改革第2弾テスト企業となる10社の内、9社のテスト案は既に出来上がっている。近いうちに認可され実施されるだろう」などと発言している。また、第2弾テスト企業は、電力、石油、天然ガス、鉄道、民間航空、通信、軍需などの産業領域で行われると昨年12月の中央経済工作会議で発表されている。

さらに、「第3弾テスト企業の選別作業を既に始めている」とも発言している。第3弾テストでは、「戦略的投資家を引き入れ、企業株式構造を優良化する。董事会を強化し、党の指導者と企業統治の有機的結合を積極的に模索する。マネージメント層の市場化選考や身分の変更を実施し、企業経営の決断能力を有効に引き上げる。報酬制度改革の実施を加速する。従業員持ち株会のやり方を研究する」など新たな試みを行う方針である。

外資やテンセント、アリババが将来、国有企業の株主になる?

中国には、テンセント、アリババ、バイドゥなど、世界のIT業界をリードする民営企業がある。さらに、これらに続く急成長民営企業がたくさんあるが、それらの企業は、欧米の金融機関などとの密接な関係を通して、完全に欧米スタイルの最先端の組織を作り上げている。

徹底的な能力主義、スピード、効率重視の経営が彼らの躍進の原動力となっている。混合所有制改革では、中国市場に強い関心を持つ欧米の優良企業に加え、こうした優秀な中国の民営企業を株主として迎えることで、その進んだ経営を積極的に取り入れることができる。

中国には、改革開放以来、郷鎮企業、民営企業と続く完全市場型企業形態と、延々と続く改革を経て今に至る国有企業、海外資本による企業とが混然一体となり、更にそれぞれが資本交流を行うことで、多様な組織が存在するが、エネルギー、素材、建設、運輸、通信、金融、軍事などの重要産業は国有企業が中核となっている。

中国経済の中核でありながら、公有制堅持の意識が強く、改革が遅れていた国有企業が、大胆な産業再編と共に混合所有制改革によって、経営力は強化され、規模だけでなく、効率性の面でも優れた企業となる可能性がある。

日本には中国経済が長期の停滞に陥るといった「中進国の罠」に陥ることを懸念する投資家もいるだろうが、表面的なマクロデータによる国際比較は、中国が社会体制の異なる国家であることから、あまり意味がない。中国内部ではあらゆる分野で大きな改革が進んでいる。中国の多様性と変化の大きさ、速さに注目すべきである。

田代尚機(たしろ・なおき)
TS・チャイナ・リサーチ 代表取締役
大和総研、内藤証券などを経て独立。2008年6月より現職。1994年から2003年にかけて大和総研代表として北京に駐在。以後、現地を知る数少ない中国株アナリスト、中国経済エコノミストとして第一線で活躍。投資助言、有料レポート配信、証券会社、情報配信会社への情報提供などを行う。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。東京工業大学大学院理工学専攻修了。人民元投資入門(2013年、日経BP)、中国株「黄金の10年」(共著、2010年、小学館)など著書多数。One Tap BUY にアメリカ株情報を提供中。HP: http://china-research.co.jp/