ノルマなし、残業禁止、年間休日日数約140日以上、社員旅行は海外、しかも創業以来赤字なし。そんな夢のような会社がある。それが未来工業だ。創業者・山田昭男社長(故人)の足跡をたどりつつ、そのユニークな経営文化の一端に触れたい。

日本一幸せな会社

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(写真=Sunlike/Shutterstock.com)

岐阜県にある未来工業の業務内容は、電気設備資材、給排水設備、およびガス設備資材の製造販売だ。そう聞いてもピンとこないかもしれないが「究極のホワイト企業」ともいわれ、マスコミや経済誌などにも何度も取り上げられている、知る人ぞ知る超優良企業である。

とにかく特徴的なのが、各種の社員優遇制度だ。タイムカードなし、営業ノルマなし、残業一切禁止、制服なし、部下への押しつけNG、ホウレンソウ(報告、連絡、相談)禁止。従業員はすべて正社員で、最高3万円という改善提案制度もある。また年間休暇が140日(有給休暇除く)もあり、育児休暇はなんと3年。5年に1度は会社全負担で海外への社員旅行もある。

まさにいいことづくしの企業風土だが、こうした社員優遇制度を採用しているのにもかかわらず、いやだからこそなのか、業績は堅実成長路線だ。なんと創業以来赤字なしで、経常利益率も最高22%、平均13%という超優良ぶりなのである。

1991年には名証2部へ上場し、1997年には織部賞の知事賞を受賞。給料も地域トップレベルで「日本一幸せな会社」とまで呼ばれる、卓越した企業風土を実現している。

社長は演劇畑出身の変わり種

こうした社員重視の企業文化を創り上げたのは、創業者の山田昭男氏である。そんな山田氏の経歴もいささか変わっている。もともとは父親の経営する町工場で17間勤務し、そのうち演劇にのめり込む。しかし「道楽者は置いてけん」と会社を追い出され、やむなく演劇仲間とともに会社を設立した。それが「未来工業」だった。借家の土間にコンクリートを敷いて工場とし、まずは電線を分岐する器具をつくった。ライバルは、松下電工(現パナソニック)である。

とても太刀打ちできる相手ではなかったが「よそにはないひと工夫を」を合言葉に斬新な製品を開発し、瞬く間にベストセラーになった。創意工夫を武器に、高いシェアを積み上げていく原点がそこにあったのだ。

苦労も重ねたが、当初から未来工業には他に例のない斬新な企業文化があった。それは、当初から「下請けでなくメーカーとして勝負したい」という熱い思いと、演劇出身者ならではの「あくまでオリジナルを重視」し、なおかつ「演者にすべてを委ねた上でアンサンブルを重視」するというユニークな経営手法だった。

モットーは「小さな倹約、大きな浪費」、そして「常に考える」

未来工業の工場内は、あちらこちらに「小さな倹約、大きな浪費」というスローガンが張り出されている。節約は徹底されていて、例えば照明はすべて控えめで、特に事務室などの蛍光灯には1本1本から点灯用の紐がぶら下がり、名札がついている。担当が決まっていて、光熱費節約のためこまめに消す決まりとなっているのだ。

しかし、使う時は大胆に使う。代表的な例が、社員全員参加で行く5年に1度の海外旅行だ。行き先は社員の企画会議で決まり、旅費はもちろん全額会社が負担する。

社員重視の社風は、当然のことながら現場にも徹底されている。特徴的なのは、現場のアイデアを尊重し、挑戦を奨励していること。単なるスローガンで「挑戦」をうたう会社は多いが、未来工業の場合は本当に失敗してもそれが前向きの挑戦ならば上司も叱責しないし、仲間の視線が冷たくなることもない。この違いには、特に中途入社の社員が驚くという。

もう一つ、工場内でよく見かけるスローガンが「常に考える」。この理念のもと、未来工業からはさまざまなイノベーションが起こり、創意工夫にあふれた製品が次々と生まれている。未来工業の意匠登録件数は、大企業を押しのけてつねに上位20社にランク。それが圧倒的な商品力、価格維持力、つまりは高い収益性につながっている。

社内に息づく人間尊重の精神

未来工業の社員優遇制度の底流にあるのは、従業員への徹底した信頼だ。さまざまな高待遇、処遇の良さは、一見すると効率第一主義全盛の今の時代とは逆行しているように思える。しかし「(待遇がいいと)『働かんと申し訳ない。頑張ろう』って思うやろ。それが日本人の心や」(山田昭男氏談)という言葉には、社員を信じる創業者の思いがにじみ出ている。

そしてもうひとつの創業者の「会社は社員を幸せにする場」という言葉も胸を打つ。1日の半分以上を過ごす職場が楽しくなくてなにが人生か、という山田昭男氏の熱い思いが伝わってくる。

その未来工業の創業者・ 山田昭男氏は、2014年に82歳で亡くなった。現在未来工業の社長は、創業者の子息・山田雅裕氏が継いでいる。そしてもちろん創業の精神は、今なおしっかりと社内に息づいている。

人材の高度化、開発商品の高付加価値化など、いずれも多くの企業が取り組んでいる課題だし、そのための制度上の模索もいろいろと行われてはいる。しかし、根本の土壌が豊かでなくては、素晴らしい実りは得られない。

人口減少が進む日本で企業が生き残っていくためには「人間尊重の経営」がますます重要度を増してくるだろう。日本人の働き方が根本から見つめ直されようとしている今、未来工業の企業文化は多くの企業にとって重要な示唆を含んでいるといえそうだ。(提供: 百計オンライン

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