スタートアップの世界でイスラエルが注目されて久しい。世界経済フォーラムのランキング(2016年)でも「優れたイノベーション力」で2位、「ベンチャーキャピタルの活用」は2位、「研究機関の質」「研究開発費」「大学と産業界の研究開発コラボレーション」3位と評価も高い。
「同様に注目されているのはドイツ・ベルリンやシンガポールなどですが、これだけ複数の項目でランキング上位に食い込んでいる国・地域はない」と語るのは、企業のマーケティング支援などを手掛けるBES社長の田中千晶氏だ。
田中氏は2017年3月、約1週間テルアビブに滞在し、注目スタートアップに“突撃取材”したという。田中氏にその狙いと現地で見たこと、感じたことについて聞いた。
クライアント企業に刺激を与えるためにイスラエルに行った
「いくらマーケティングプランを練り上げても、広めたい商材やサービス自体に魅力がないと意味がない」--。
Web マーケティングを事業内容の一つとする田中氏には、こんな持論がある。マーケティングはクライアントの商品やサービスをいかに広めるかを考え、提案するものだが、やはり「商品・サービスそのものがよくないと、いくらプランを練ってもダメ」だという。
しかし日本はよく「ガラパゴス化」しているといわれる。およそ1億人が住む、それなりのマーケットがあるため、業種にもよるものの、無理に外国を市場として考えなくても何とかなったからだ。
とはいえ、人口減少、高齢化が急速に進んでいるし、ネットの普及で情報や流通は容易に国境を越えるようになった。田中氏は「日本企業にも、『本当にいいモノをつくっているのか』を自問してほしい。それはつまり日本を出ても評価されるモノかどうかということ」と指摘する。
そして、「クライアント企業にその必要性を感じてもらうには、自分が実際に外国で刺激を受け、情報を集め、伝えることが必要だ」と感じた田中氏は、自身が刺激を得られる場として考えたとき、シリコンバレーともう一つ思い浮かんだのがイスラエルだった。
田中氏のクライアントにもスタートアップは少なくない。起業が盛んなイスラエルには、日本のスタートアップにとって学ぶべきところが多いはずだと感じたのだ。
キーパーソンに会いやすい理由
イスラエルは1948年の建国に至るまでの複雑な歴史と、4回の中東戦争もあって、「紛争地域」のイメージが強いかもしれない。約868万人が暮らす国土は日本の四国より少し広い約2万キロ平方メートル程度しかないが、「狭いためにビジネス関係者が集まるエリアが限られ、テルアビブ(人口2位の都市で経済の中心地)では『道で、関係者とばったり会う』ことも珍しくない。キーパーソンと会えるので意思決定もスムーズ、とにかくスピードが速い」と田中氏。3月末に渡航して6泊7日の間に1日平均5社の企業を訪問したというが、これも狭いからこそなせる業だ。
もちろんシリコンバレーにもチャンスがある。しかし競争も激しくなった今、会う相手が事前に明確なメリットを感じられないと、会うことすらままならない。シリコンバレーのベンチャーキャピタリストを訪れた際、「もし推薦や企画書なしで『会ってください』と言っていたら、私に会いましたか?」と聞いたところ「そんな時間的余裕はない」という答えだったという。
訪問30社のうち特に注目した3社
訪問先の中で田中氏の印象に強く残った企業の一つは、イスラエルの郷土料理「フムス」の有名企業 Shamir Saladas 2006 Ltd.のマーケティング戦略だという。郷土料理は、万人に向けて売ろうとして焦点がぼやけがちだが、同社は「フムスはヘルシー。だから不健康になりがちな、テック系で働く人に食べて欲しい」とターゲットを絞り込んでいた。さらに人気シェフとコラボするなど、「マーケティングがうまいと感じた」と田中氏は指摘する。
日本でも利用者の多い、簡単に無料でWebサイトを作れるWIX.comもイスラエルの企業だ。同社で興味深かった点は、ワールドワイドのマーケティングも、本社のテルアビブで行っているということだという。本社だけでどこまでやれるかということを研究していて、支社を置かないこともコンセプトの1つというのだ。
シリコンバレーでもそうだが、イスラエルのスタートアップの多くも買収されることを「ゴール」ととらえている。大きな成功例とされるのがウェイズ(Waze)だ。争奪戦にはApple、Facebookなどそうそうたる企業が名乗りを上げ、2013年にGoogleに推定10億ドル以上で買収され傘下に入った
2008年創業でスマートフォン向けの無料カーナビアプリの開発と提供を主業としてきた。利用者のデータを収集してリアルタイムに反映する仕組みで、渋滞情報などがシェアできるのが特徴だ。
ジェトロテルアビブ事務所によると、ウェイズの共同経営者、ウリ・レビン氏は「Make your mistakes fast.(成功するにはいくつかの間違いを経験するものだ)」と語っている。そのスピリッツを示す現地の言葉が「フツパー」だ。ヘブライ語で「厚かましい」といったネガティブな意味も持つが、「失敗を恐れずに、大胆に、傲慢(ごうまん)にいくこと」といった、よい意味でも使われる。
田中氏は「アプリを開発する場合でも、目的に対しては失敗に終わっても取得データは資産になります。どこかには必ず成功の兆しはある。1歩1歩成功に向かう姿は、数多くの企業を生み出した、日本の戦後と重なって見えます」と分析する。
失敗を許容する価値観も高く評価できる
田中氏自身は29歳だが、20代半ばのスタートアップを起業した若者たちと話していて、老成した50歳、60歳のビジネスパーソンと話しているような錯覚にとらわれることもあったそうだ。「起業家は、そのプランには未熟な部分、ブラッシュアップする要素があったが、いずれもぶれないビジョンを持っていました」と評価する。
そして失敗も率直に話すし、「あなたはどう思うか」と意見を求めるところも特徴と感じたそうだ。「日本では失敗を恥と考え、萎縮してしまうことがある。失敗を許容する価値観は、日本のスタートアップが伸びていくために必要な要素だと思います」と話す。
「ビジネスプランがあるなら、テルアビブを訪ねてみるとチャンスに出会えるかもしれません」と田中氏。イスラエルには、日本のスタートアップが学べるところがたくさんあるのは間違いなさそうだ。
田中千晶(たなかちあき)株式会社BES代表取締役
2009年、大学在学中ソーシャルメディアを活用した収益化マーケティング会社アントを設立。2016年にBESを創業、現職。Webプロモーション支援を得意とし、最新のネットプロモーション事情について発信。企業の根本的な問題点を把握した上での課題解決につながるコンサルティングが高い評価を得る。レインボータウンFMのラジオパソナリティーとしても活躍。著書に『実践!Instagramビジュアルマーケティング 共感される公式アカウントの企画・運営からキャンペーンまで』(KADOKAWA・メディアワークス)などがある。
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